#12 俺の話を聞け

 どんなにアヤにアピールしてもあいつは俺を嫌うだけ。でもそれ以上にどんどん俺を意識している。本当どアホだな、アヤは。そんなとこが好きだけど。しかし本当にアホだな。


 気づいてるくせに。


 俺はアヤの耳元に口を近づけて言った。

「愛してる。」

と。するとアヤは顔を真っ赤にして瞳に沢山光を溜めて涙目になる。前はこんなことなかったのに。慣れるどころか壊れていっている。イジワルしすぎたかな?なのにアヤは頑なに認めない。

 本当は俺が好きな癖に。よくわからねーな。アヤの気持ちは。

「アヤ、今日の放課後校舎裏来いよ、な?」

 これが怖いっていうのは不良だから仕方ないで割り振ってくれ。




 アヤ

 最近、永野がやばい。異常なほどわかりやすいアピールをしてくる。一緒にいて恥ずかしい。私はそれを心珠に相談した。すると心珠は楽しそうに笑った。

「綾香は鈍感だね。多分ね、綾香は永野君のこと好きなんだと思うよ。だから意識しちゃうの。」

 心珠は真っ直ぐそう伝えた。私は首を横に振った。

「そんなわけない。」 

 そういえば永野もそう言ってたな。でも、私はからかってくる永野が嫌だ。嘘みたいな言葉を吐いてからかってくる永野に一緒にいて嫌気が差す。だからそれをやめてもらうように嫌いになってほしい。私は永野が好きなわけないと思う。

「綾香こそ最近変だよ?顔を真っ赤にして意識してるでしょ?」

 その通りだ。でも、本当に私が永野を好きだったらこんなふうにモヤモヤしないと思う。好きって言われたらもっと嬉しいと思う。

「綾香はツンデレだね〜。」

 

 ツンデレ?????


 そんな漫画みたいな話あるのか?私だって好きって言われたら喜べる。雉田君に好きって言われてもクラスの奴に言われてもきっと私は喜ぶ。それを心珠に伝えるとこう言った。

「幼馴染みだからじゃない?難しい関係だよね。」

 幼馴染み、だから?私が困惑していると心珠は笑った。

「まぁ、放課後までまだあるし、ゆっくり考えなよ?流石にちゃんと振るなどしなくちゃ永野君が可哀想だよ?」

 その通りだ。こんなの、私がされて傷ついたのと全く同じ。永野は余裕振ってるけど正直傷ついてるはずだ。私も、最低なカズと全く一緒だ。そろそろちゃんと振ってやろう。私は永野が好きじゃないのだから。



 放課後永野の言う通りに校舎裏に来た。永野は私を待っていた。校舎裏の大きな桜の木の下、緑色の葉を薄っすら儚く見つめていた。その茶色い瞳の中に緑色の葉が映り美しい。思わず息を飲んだ。ふと視線は私に向けられた。永野はポケットに手を突っ込んだまま私を睨むように見た。心が抉られるようだった。そして私に薄っすら笑いかけた。

「本当に来てくれたんだな。来ないと思ってた。」

「流石に行くよ。」

「今だけ俺をカズと呼べ。いいな?」

「…わかった。」

 するとカズは楽しそうに笑った。何度も何度も笑った。子供みたいに楽しそうに笑った。

「じゃあ、アヤ。いつもみたいに俺をつきはなすな。お前は俺の話を聞け。」

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