#7 話を聞いて

 涙は引かず私はびくびくしていた。先生は突然の出来事にこの授業を自主勉強時間にした。喜ぶ男子。震える私がどうしたのか野次馬のごとく集まる女子。私の背中を擦る心珠。

 謝らなきゃ。私はただその一心で怯えていた。

 後に私は異常だったため先生に保健室に連れてこられた。静かな保健室は私を安心させた。椅子には包帯だとか手当をされた雉田君がいた。謝ろうと駆け寄ると「すまんな」と謝られた。私は戸惑った。

「私こそごめん。」

「いやいや。俺、つい意地悪したくなってな。ごめんね。鹿島さん。」

「私のせいで、こんなっ」

「いや、鹿島さんは悪くないよ。殴っててお願いしたわけじゃないでしょ?それにこうやって心配しに来てくれてるんだから。」

 雉田君は笑って私の涙を拭った。本当になんでそんなに優しいの拭ってくれたのに涙が溢れてしまう。

 私は暫く心を落ち着かせながら雉田君と話していた。途中に私も笑って話せるようになった。

「永野、どうする?」

 私は弱々しい声で言った。

「話すよ。この作戦のこと。」

 きっと嫌われたから私の目的は達成した。雉田君は柔らかく優しく笑った。

「そっか。頑張って。」

「うん。お大事に。」

 そう言って保健室をあとにした。



 結局永野は学校に戻ってこなかった。家に帰りスマホを見た。「このあと俺の家に来てくれよ」そう送られていたのはまだ私が学校にいた頃。帰ったんだな。なんて思いながらそのチャンスを噛み締めた。「わかった」とだけ送るとすぐ既読がついた。私は永野の家に向かった。

 ドキドキする心臓。震える足。冷や汗が体に伝う。頭が痛い。謝らなきゃ。私は確かに永野の家の前に立っていた。震える手でチャイムを鳴らす。心臓の音が苦しい。

 扉が開いた。そこには金髪の永野がいた。

「入れ。」

 永野はそう言った。私は恐る恐る家に上がった。懐かしい匂いに包まれる。靴を揃えて永野についていった。手を洗うと永野の部屋に連れてきてもらった。互いに一言も言わずに気まずい。永野は私を座らせるとお茶を取りに行ってしまった。机にはがさつに漫画が散らばっていた。男の子らしい部屋だけどものは少なく綺麗。しかし机に散らばったピアスは危ないからしまってほしい。

 永野がお茶を持ってきた。私は緊張でカラカラだった喉を潤した。

「今日はすまんかったな。怖かったろ?」

「うん。少し。」

 永野は相変わらず冷たい視線を私に向けていた。

「ごめん。」

「なんでアヤが謝るん?俺が悪かっただろ。」

 私は、彼に真実を話す勇気を起こした。それは、どれほどの罰を耐え凌ぐよりも辛いものだと私は思った。

「お願い、私の話を聞いて。」

 するとほんのり彼は微笑んで「いいよ」と言った。きっと彼には嫌われ、彼には気づかれていたが自分で言うのはだいぶ意味が違かった。

「私、永野を騙してたの。」

「おん、それで?」

「嫌いになってもらおうと、雉田君に相談して私、永野のことを傷つけた。」

 私は、ゆっくり言葉を紡いだ。しかし彼は怒らず静かに聞いていた。

「理由があってね?私さ、付き合ってたときよく私のどこが好きか聞いてたでしょ?本当は永野は私のことが好きじゃなくて、もしかしたら永野は私が昔永野が好きだったからからかってるのかもしれないと思ったの。そしたら無性に腹が立って永野に嫌われて離れてもらいたかった。だって、子供だったとしても私は本気だったから。」

 そう言うと彼は頬杖をついて私を見つめた。

「気づいてた。全部最初から。俺がそんなに馬鹿に見えたか?幼馴染みの俺はそんなにお前を知らないと思ってたか?アホなんじゃねーの?そんなの、幼馴染みのお前が一番よくわかってたくせに。」

 その通りだ。涙を流す私を彼はなにも言わずに見つめていた。

 その通りだ。昔の彼は私が悩んでること、企んでること一番に気がついた。そして優しくしてくれた。私が彼を好きになった理由はそれだった。他の誰よりも私を見ていて優しくしてくれた。私が一番よく知ってたはずなのに。

「ごめん。カズ。」

 私は呟いた。そう呟いた。

「好きだ。愛してるよアヤ。」

 突然始まった彼の告白。嘘くさいそんな言葉。でも今は腹が立たなかった。

「嘘つき。」

「嘘じゃない。本気で俺はお前が好きだぜ?」

 そう言って微笑む彼。彼は気づいたらこんなに男前になっていた。今じゃ怖いくらい。

「お前は俺のこと好き?」

 私は彼に返した。

「嫌い。ずっと嫌い。私は永野が嫌い。」

 すると永野は苦笑した。

「好きって言ってる相手に嫌いって連呼するなよ。

 …まぁいいわ。そのうち俺に夢中にしてやるから覚悟してろよ?」

 私は涙を拭って永野を睨んだ。

「なら嫌いさせてやるから。」

「やってみろよ。」

 彼は得意げにそう言って笑った。私も笑っていたのはきっと永野しか知らないだろう。




 

 

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