#6 本音を聞かせて

 朝、罪悪感に蝕まれながら永野に「おはよう」と言った。すると永野も「おはよう」と返した。案外永野は静かだった。付き合う前は煩かったのに。

 私は永野を見つめた。

「なんだよ。」

 冷たいと思えるほどの返答。本当に私が好きだったのだろうか。

「私が好きなんじゃないの?」

 気持ち悪い発言をして永野を見た。でも、と特に反応をくれなかった。

 あぁ、やっぱり私のことそんなに好きじゃなかったんだな。


 私はそう思いながらこのしつこい女を演じた。きっと彼は私を嫌いになってくれるだろうから。しつこく彼に「私のこと好き?」と聞いた。

 すると特に顔色を変えずに「好きだよ。」と言った。嘘くさい。そう思いながら「どこが?」と言った。彼は「またこの話するのか?」と言わんばかりに「アヤが好きなんだって」と言った。どこが?って聞いても答えられないのね。私は笑いながら「ありがとう」と言った。すると彼は私の腕を引いた。

「お前、何かあった?」

 流石に急な私の態度の変化に違和感を持ったのだろう。しかし私は笑った。

「なんか、カズのこと好きだって意識して一緒にいると幸せで。」

 すると暫く私の目を見つめていた。でもすぐに手を離して顔をそらされてしまった。罪悪感が私の脳裏に焼き付く。私って本当に最低だ。

「ねぇ、カズ。」

「どうした?」

「本当に私のこと好き?」

「……どういうこと?好きだから告白して付き合ってんじゃねーの?」

 私は当たり前の様に言う永野を見て笑った。

「そうだね。」

 本音を聞かせて。なんで、教えてくれないの?そんなの絶対嘘じゃない。




 私は雉田君に相談した。

「なんか、永野可哀想になってきたな。」

「罪悪感が…。」

 雉田君は最低な自分をわかってくれた。突き放さずに一緒に考えてくれた。本当に優しいな。

「でも、いいんじゃない?嫌われたいなら。」

 私は何も言えなかった。その通り過ぎて。でも、何か引っかかる。

「一つ質問なんだけどさ。鹿島さんは嫌われたいの?本音が聞きたいの?」

 その質問に私は息を飲んだ。確かに私はどちらが目的なのだろうか。しかし、私のことをからかってくる永野が私は嫌いだった。だから彼に近づいて来てほしくないから嫌われたい。

「メインは嫌われたい。でも、私は私が永野を好きだった事実を知っててからかわれるのが嫌なの。やめてほしいの。でも、その告白が本物かもしれない。だから、からかってるのか本気なのか知りたい。」

「聞いた?」

 雉田君はいつもみたいにそばに寄り添ってくれなかった。中立的立場で私に冷たくそう聞いた。

「本気なのか聞いた?」

「聞いたよ。何度も。」

「それは、作戦関係なく一対一で?」

 私は心臓がドキリとなるのを感じた。確かに私は雉田君がアドバイスしてくれた作戦を実行していた。利用していたにすぎない。一対一で、永野に本音を聞けていない。彼こそ、私の本音を知らない。だから、答えてくれなかったのか。気づいていたのだろうか。そうだとしたら私はきっと嫌われただろう。

「嫌われたんなら良かったね。目的がかなったよ。」

 雉田君は悪魔みたいに笑った。確かに私の望みだった。

「何だ、目的達成したのに泣いてるの?」

「え…?」

 私は頬に涙が伝うのを感じた。心がないような冷たい雉田君はじっと私を見ていた。馬鹿みたいに泣いている私を見ていた。

「なんか鹿島さんって変な人だね。」

 雉田君は笑った。そして優しく私の頬に手を添えた。雉田君の手が私の涙でぬれる。

「どうしたいの?」

「鹿島さんは結局どうしたいの?」

 彼はどんどん私に追い打ちをかけてきた。

「やめろよ。」

 その声は冷たく低い声だった。雉田君の腕が掴まれて私の頬から離れる。この声に聞き覚えがあった。ゆっくり顔をあげるとおぞましい顔をした永野が私を睨んでいた。

「俺の彼女に何してんの?」

 永野は雉田君に低い声で言った。すると雉田君も永野を睨んだ。そう思ったら美しく笑った。

「鹿島さんの相談を受けてたんです。」

 すると思っきり雉田君を永野が殴った。私の体は恐怖に支配された。ぐったりとした雉田君は永野を見た。永野は雉田君の胸倉を掴んでもう一発殴ろうとした。私は震える体を動かして永野の腕に抱きついて止めた。

「やめて!!やめてよ!」

 私が泣きながらそう叫ぶと拙いと思ったクラスメイトが先生を呼びに走り出した。永野は私を見た。彼の瞳に映る私は怯えていた。彼は雉田君を壁に押し付けた。私は泣きじゃくりながら叫んで止めた。やめてと何度も。

 私のせいだ。私が馬鹿みたいなことばかりしたせいだ。

 すると先生が四人来て永野を止めた。四人がかりでも抵抗できる永野は少し怖かった。そして職員室に連れて行かれた。私は血が出ている雉田君を先生のもとに連れていき保健室に連れて行ってもらった。残された私はびくびくしながら心珠に慰められながら血などを拭いて掃除をした。


 これ全部私のせいだ。


 


 

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