#3 嫌いになって

 永野の行動や発言に私はうんざりしていた。何が狙いなのかわからない。しかし実際は永野が私を好きだと思っていないことぐらいはわかる。からかっているのか私を虐めたいのか、企みは私にはわからないが本当に腹が立った。いつから彼はこんなふうになってしまったのだろう?


 いや、いつから私はこんなに醜い女になってしまっただろう?

 彼の言葉、行動が全て嘘みたいに見え腹が立つ。彼は本気かもしれないのに。それでも私は彼が嫌いだった。苦手だった。過去のトラウマもあるが、なぜか私は永野に対して苦手意識があった。きっと、あんな告白があったせいだろう。絶対に彼のせいだ。私はそう、彼を責めることしか出来なかった。

 

 彼のまつげの長い冷たく細められた茶色い瞳がしっかりと私を映している。そして私は改めて自分の顔が引きつっているのが見えた。それを彼は怪訝そうに見ていた。彼は私の机で頬杖をつき互いに何も言わずに見つめ合う。傍から見たらおかしな光景だろう。しかし彼の瞳は私の視線を吸い込むように私を掴んで話さなかった。そんな私を助けたのは予鈴の音。彼は仕方なく顔をそらした。私はその時、ドキドキしていたことに気がついた。なんだか胸が苦しいな……。




「好き」

「愛してる」

「俺のこと好きになれよ」

「お前が好き」

「なぁ、本気だぜ?」

「本気で俺はお前が好きなんだよ」

 そんな美しい嘘みたいな言葉。しかしなぜか心臓の鼓動は早くなるくせに恥ずかしかったり嬉しかったり少女漫画のような感動を得ることが出来なかった。それどころか苦しくて辛かった。

「からかうのやめてくれる?不愉快なんだけど。」

 しかし彼は私のそんな言葉にすら動じない。ただ、私を見て好きだと言った。表情一つ変えずに淡々と。それはからかっているようにしか見えない。彼は時々目を細めて愛おしそうに私を見たあと微笑んで「好き」だとか「愛してる」「本気だよ」と言った。その度私は「どうせ思っていないくせに」と思った。彼の行動は私にとって残酷なものだった。昔告白したの覚えてるでしょ?忘れていたら大罪だ。私をからかうのは彼にとってなんの得があるのだろう。

 愛おしそうに見つめる彼を私は睨んだ。本当に何がしたいのよ…。

 二時限目の予鈴がなった。心珠に早く相談したいな…。



 永野は不良だった。今はこの学園一の不良らしい。脱色した髪は短く襟足だけ少し長い。前髪はかき揚げられている。制服なんて来てないし、ただ白いシャツを着ているだけ。しかし、誰も彼を注意出来なかった。やはり不良だったから。それは私も同じだった。一度私と永野が幼馴染みなら永野に注意してほしいと言われたことがあった。しかし私はできず終い。怖い。彼は冷たい軽蔑するような瞳を向けてくる。低い声は冷たく威嚇し、筋肉質な腕がそでをまくられているせいでよく見える。彼は怖い。

 しかし今は、ただの狂犬みたいな番犬みたいなそんなもの。健気にずっと私に愛の言葉を送る。愛おしそうに見つめてくる姿は尻尾を振っているようにも見える。

 まぁ、全く可愛くないんだが。

 しかし私はいつも怒り混じりに彼を睨んでやることしか出来なかった。

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