第15話手紙

 高田さんと栄太さんは一緒に大広間にいた。何やらマジックの練習をしており、栄太さんがそれを客席で見ているようだった。栄太さんの側には横山さんが静かに控えていた。

「ごめんなさい! 不謹慎、ですよね? 人が亡くなっているし、それに貴方のお師匠さんが捕まっているのに……」

 慌ててこちらに着た高田さんは下にうつむく。

「別に大丈夫ですよ。ところで確認なんですけど、みなさんは11時には何をしていましたか?」

「え? 昨日の十一時? こんな感じで栄太くんと一緒に手品の練習に付き合ってくれてたよ。大広間で。ね?」

「えっ? あ、はい」

 栄太さんは突然、高田さんに同意を求められて驚いたようだった。

「そういえばお二人は以前から仲がいいのですか?」

 俺がそう聞くと高田さんはうん! と元気に頷いた。

「そうだよ! 私と、栄太くんが協会のお仕事でよく一緒でね、それで仲がよくなったのよ」

「協会のお仕事?」

 そういえば魔術機関は具体的に何をしている組織なのだろうか? 俺が疑問に思っていると神坂さんが解説してくれた。

「魔術機関は冠位所得者に仕事を課すことがあるのです」

「そうなんですか?」

「ええ。例えば化学ではできないことの代用、一部魔術の譲渡、研究発表など様々ですわ」

 なんだか大変そうな組織だなあと感心した。

「そういえば、横山さんにもお話をお聞きしたいのですが、昨日の10時以降の行動を教えてくださいませんか?」

 俺は栄太さんの横に控える横山さんに尋ねた。

「私は先ほどお話した通り、夜の10時30分まで厨房で明日の準備をし、11時に旦那様へ確認したいことがございまして、行ったところ朱音様が入っていくところを見たしだいです」

 今回の事件、鍵はこの横山さんの証言と写真にある。証言だけなら証拠として薄いが、その時の記憶を現像出来る『記憶放出』。この二つをどうにかして崩さないと、響子さんに対する容疑は消えない。待てよ? 写真?

「横山さん、例の写真もらえますか?」

「ええ、別に構いませんが」

 横山さんは懐から写真を取り出し、俺に渡した。

 改めて見ても、間違いなく響子さんだ。黒く長い髪、煌びやかな赤のドレス。そして、ちょうど道元さんのドアに手をかけている。

「他に何か気になることはありませんでした?」

「そういえば……。旦那様がーーされた後、私はゴミを確認しました。現場には凶器がありませんでしたので。ゴミは魔術により管理されております。容量を超えるか、時間になるかで自動的に処理されます。しかし、昨日の21時からの間のゴミを調べましたが凶器は見つかりませんでした……」

「なるほど」

 そういえば、凶器はなんだろうか? ナイフ? 剣? それに、あれだけ刺したのなら返り血も激しいはずだ。それがゴミの中にないとすると……。

「ありがとうございました。横山さん、それに高田さんと、栄太さん」

「うん! また何かあったら聞きにきてね?」

 そういって明るく送ってくれた高田さんを背に俺たちは歩き始めた。

「神坂さん」

「はい? なんでしょうか?」

 俺は神坂さんの耳元近くで囁いた。

「どうにかして響子さんに会えませんか?」

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