第12話 ウースター卿

まず、俺たちが話を聞いたのはウースター卿だ。彼はバルコニーに座り、優雅に紅茶を飲んでいた。

 相変わらず気味が悪い。それに、響子さんを追放したのもこいつが関わっている。しかし、犯人という証拠はない。……それに俺たちは不本意ながら、アリバイを証明できてしまうのだ。非常に腹立たしい。だが、その感情は隠すことにした。

「昨日の十一時から十ニ時? えぇ、もちろん! チャンドラーくんと、あと海斗くんとも談話室にいましたよお」

「大波さんが、ですが?」

 どうやらあの部屋には三人いたようだ。俺たちは話声を聞いただけで、中を見ていないからわからかったが。

「そうですか。何か気になるはありましたか?」

「気になることぉ? 私とチャンドラーくんが交わした厚く濃密なーー」

「いえ。卿、ありがとうございましたわ」

 話が長くなると、神坂さんは無理やり話を終わらせた。確かにこれ以上情報はなさそうだ。俺たちがその場を去ろうとしたとき、ウースター卿が俺に語りかけた。

「申し訳ないねえ。ただ、私は事実を述べたまでなんですよお。だから怒らないでもらいたいねえ」

「……何の話ですか?」

「響子くんを容疑者として挙げたことを、だね」

「……」

「私だって信じられませんよお。あの響子くんが、私じゃなくて……道元くんを殺すなんてえ」

 ヒューと冷たい風が吹き抜ける。ここは鏡の世界だが、風はあるようだ。

「いきますわよ奏多くん。……あまり時間がありませんし」

「……そうですね」

 俺はバルコニーの扉を力強く閉めた。扉はザラザラとしていた。

 廊下を歩きながら俺は神坂さんに質問した。

「そういえばウースター卿はどんな人なんですか?」

 ふむと神坂さんは顎に手を置いた。

「わたくしもあまり知りませんわ。前も話した通り、イギリス革新派の筆頭核ぐらいしか……。あとは孤児院も運営しているとか」

 あの顔で孤児院か……。偏見だが、子供を食べてそうだ。

「響子さんとはどんな関係なんですか?」

「さあ? わたくしも、『使い魔通信』で知り合いがいるとかいう以外、友人がいたなんて初めて聞きましたわ」

「そうですか……」

 やはり謎解き人物のようだ。……怪しい。

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