第11話 助っ人

 響子さんが監禁され、重苦しいまま話し合いは終了した。その後、俺は一人、部屋で寝転がっていた。

 魔術取締局の到着は今日の午後6時。鏡の国に謎の結界が張られ、内部からは干渉できないらしい。一体どうしてそんなことをしたのかわからない。これでは中に犯人がいますとアピールしているようなものだ。……いや、待て。犯人はそれが目的なのか?

 わざとこの屋敷内で犯人捜しが起こるようにし、響子さんを犯人に仕立て監禁する。だが、何のために? うーん、わからない。

 でも、一刻も早く響子さんの無実を晴らさないと、本当に響子さんが犯人にされてしまう! いくら酒に酔った響子さんとはいえ、人を殺すことなんてしない。俺はそう確信している。だって響子さんは俺の師匠であり、憧れの人、なのだから。

 なんにせよ、情報が足らない。誰かと協力すべきだ。ここは……。

 俺は起き上がり、部屋を出ると、あの人の部屋を尋ねた。

「はい? どなたですーーああ、奏多くんでしたの」

 そう、神坂さんだ。俺が頼れるのはこの人しかいない。

「少しお話してもいいですか?」


 俺たちは談話室に行き、そこで自分の思っていることを神坂さんに話した。

「もちろん構いませんわ。……わたくしも響子ちゃんがやったとは、とても思えませんし」

 そういうと、神坂さんは紅茶を軽くすすった。

「ありがとうございます! 早速ですけど、神坂さんは道元さんの検死をしたんですよね? 詳しい状況を説明してもらえますか?」

 コホンと咳払いして、神坂さんは話を始めた。

「まず、検死の方法ですが……もちろん魔術ですわ。わたくしの魔術は風系統に『神』の研究。作り出すことに特化した魔術ですけど、その応用で物の構造を知ることができますわ。それで調べたところ、道元さんは腹部を数十か所、刃物のようなもので刺されていました。刃は臓器まで届きていましたわ」

 そうとう強い憎悪だ。相手に恨みがなければここまでしない……となると。

「怨恨ですね、間違いなく」

「ええ。間違いないでしょう」

 と、なると推理小説とかだと刑事が被害者の人間関係を洗う。まずは……。

「……響子さんと道元さんの仲はどうでしたか?」

「まあ、そうなりますわよね。二人がどんな仲か。何を話そうとしたか」

 俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。

「響子は元々フリーの魔術師でしたわ」

「フリーというよ、魔導機関に所属してなかったということですか?」

「ええ。正直わたくしはフリー時代の響子について知らないのですが、生活は厳しかったみたいですわ。食べるものがなく、道端に倒れていたそうです。それを通りかかった道元さんに助けてもらい、魔導機関に入ったそうですわ」

「そんなことが……」

 響子さんに悪いが、お腹が空いて倒れている響子さんの姿がまじまじと浮かんだ。

「つまり、命の恩人だと」

「ええ、決して恨みを買うようなことはなかったと思いますわ」

 ふっー、と息が抜ける。わかっていたが、響子さんが無実である確証を得られたのが嬉しかった。

「では、他に道元さんに恨みを持つような人はいますか?」

 うーんと唸りに、首に手を置く神坂さん。

「当然、魔導機関という一大勢力の会長を勤めていますもの。敵は多いですわねえ。まずは『革新派』。今回会長が倒れたことで得をするのは彼らでしょう。日本魔導機関は『古典派』が多数を占めていますが、それは道元さんの力によるもの。もし次の会長が黒崎栄太さんでしたら、日本での彼らの台頭のきっかけになります」

 なるほど、昨日聞いた派閥争いの話か。確か、この館内で革新派は、イギリス革新派会長のウースター卿、天才マジシャンの高田さん、会長の息子の栄太さんの三人だ。一番怪しいのは間違いなくウースター卿だ。あまり見た目で人を判断したくないが、彼は言動も行動も何もかも怪しい。

「そしてチャンドラーも怪しいですわ。チャンドラーは元々会長志望と聞いていまし、彼は『古典派』でもあります。ここで選挙戦に出たら、日本の『古典派』は間違いなくチャンドラーを選ぶでしょう」

「え? 外国人なのに会長になることができるのですか?」

「ええ。元々日本魔導機関はイギリス魔術協会の派生ですわ。初代会長がイギリス人でしたもの。つまり、なろうと思えばなることも可能でしょう。そうなるとイギリス魔術協会も絡んでそうですわね。近年、日本魔導機関に比べ、イギリス魔導機関は衰退の一歩を進んでします。逆に日本魔導機関は勢力を伸ばし、アジアやアメリカまで手広く活動してますわ。ここでチャンドラーが会長になれば、イギリス魔術協会の言いなりにできるでしょうしね」

 神坂さんの話を聞き、どうやらとんでもなく規模の大きな事件に巻き込まれたと感じた。

「つまり、誰が犯人でもおかしくないですね」

「ええ。困ったことに」

 はあ。とため息をついて神坂さんはまた紅茶に口付けをした。

「死亡推定時刻は昨日の夜十一時から十ニ時でしたってけ?」

「ええ。そうですわ」

「地道にアリバイを当たるしかなさそうですね。……まず僕たちは昨日時間帯、一緒にいましたよね?」

「ええそうですわ。それと、ここでチャンドラーとウースター卿が話しているのを見ましたわね。確か……十時四十五分ぐらいに」

 そういえば、そうだ。今回の容疑者最有力候補は俺たちが知る限りアリバイがある。そして、決定的になった横山さんの証言も気になるところだ。

 時計を探すが、談話室にはなく、仕方ないのでスマホを開く。

 当然Wi-Fiなどはなく、ただの目覚まし時計と化している。時刻は午前10時4分。魔術取締局が来るまで十二時間もない。

「そういえば十時になったのに、外の時計が鳴りませんね? 故障でしょうか?」

「そんなはずはありませんわ。ここの時計は礼装により動いていますから狂わせることは不可能ですわ」

「じゃあ、気のせいかな? さあ、行きましょうか?」

「ええ」

 俺たちは談話室を後にした。

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