第4話 鏡蘭館
あの鏡の隙間から見えた洋館があった。
洋館はまるで東京駅のような見た目をしており、赤いレンガで作られた洋式の二階建て。しかし、所々に日本らしい印象をあたえる。大正ロマンのような建物だった。そしてそれを覆うように黒々とした樹木が立ちならび、まさに童話で魔女が住んでいそうな館のようだった。
「はーい! 鏡蘭館に到着ですわ!」
さっ、と俺の手を離した神坂さんの声でハッとした。突然だったので頭が回らなかったが、先ほどまで異性の手を握ていた。そのことに少し嬉しさと、手を離れてしまった若干の寂しさが混ざる。落ち着け俺! 俺が愛しているのは妹である鈴女だけだ!
……それはそれでどうなのだろう?
自身をシスコンだと再認識しつつ、俺は右手をまじまじ眺めた。
「弓削……急に引っ張らないで」
俺と同じように引っ張られたのか、響子さんが横で非難の声をあげる。
「ですが、響子ちゃんはどうせ鏡の前に立った瞬間、『やっぱり、面倒くさい……』とか何とか言って、ぐずぐずしますわよね?」
「う……」
図星だったようで、響子さんは神坂さんから目を逸らせた。
「さて、さっさとお屋敷にお邪魔しますわよ!」
手を叩き、神坂さんは洋館の方へ向かって行く。……なんだかテンションが高い。
「響子さん、今日の神坂さんどうしたんですか? 興奮してお嬢様口調がところどころおかしいですけど」
「えっとね、弓削はこういうパーティーとか、お祭りが好きなの」
意外だ。時々素が出るとはいえ、俺の中で神坂さんは紅茶を飲んで微笑んでいるイメージだった。
「それにこういう行事には若い魔術師や奏多くんのような魔術師見習いが多く集まるからね。魔導機関の役員なんかはおじいちゃんばっかしだし」
「……ああ」
つまり、現代でいう合コンの意味も含まれているのか。俺は合コンとか行ったことないから知らんけど。
神坂さんがチャイムを鳴らすと、ドアが開き、メイド服を着た若い女性が出て来た。
「いらっしゃいませ。招待状を拝見させたいただきます?」
そういうので、俺と響子さんと神坂さんは招待状を横山さんへ渡した。
「神坂さま、里月さま。そして……朱音さま」
なぜか横山さんは響子さんをじろっと見つめた。
「よくお越しくださいました。黒崎家に使える横山です。以後お見知りおきを」
そういうと横山さんは俺たちに背筋を伸ばし、片足を斜め後ろに引くと、もう片方の足の膝を曲げ、両手でスカ―トの袖を持ち上げた。横山さんの長い綺麗な銀髪が照明の光で反射する。
いわゆる西洋式のお辞儀だ。その姿勢は驚くほど正確で、素早く、無駄がない。彼女の氷のような美貌に相まって、まるでフィギュアスケートの選手のようだった。
「どうも……」
「……旦那様が奥の書斎でお待ちです。ご案内いたします」
そういうと横山さんは振り返り、先に進んでいく。俺は慌てて靴を脱ごうとしたが、ここは西洋のお屋敷。靴は脱がなくていい! 少し罪悪感を持って俺は廊下をーー
「靴は脱いでください! お客さっまあ!」
「あ、はい。すいません……」
それを見た横山さんに凄い剣幕で怒鳴られてしまった。見た目通り怒ると怖い人のようだ。てか、よくよく見たらちゃんと下駄箱あるじゃんか! 俺のド阿保! だけど、怒った横山さん、可愛かったな……。そんな邪な思いで靴を脱いだ。
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