第5話 盗品

「あぁ! よくぞ! よくぞいらっしゃいました! さあさ! お入りください!」

 太陽が傾き、オレンジ色の光が照らす十文字家に響子さんを連れ、再び訪れた。

 そういう竹内に案内されて屋敷に入った。

「それで? 絵画は見つかりましたか?」

 竹内が振り返ってそう陽気に尋ねた。

「それが……ですね」

 報告しようとする響子さんに、耳打ちした。

(響子さん。最後にもう一回だけ部屋を探しましょう)

(でも、見付からなかったんでしょ?)

(……そうですけど。今回は響子さんもいますから、もしかしたら何か手がかりが得られるかもしれません)

(え~! めんどくさ~い)

(いいですから)

「すみません。もう一度部屋を確認させて頂きたいのですがいいでしょうか?」

 そう言うと、竹内はニッコリと笑った。

「ええ。構いません。私は厨房にいますので何かありましたらお声がけください」

 竹内は頭を下げると、そのまま厨房がある部屋に入っていた。

「じゃあ、いきますか」

 俺は響子さんを連れて絵が飾ってあったという部屋に来た。

「ここに絵があったみたいなんですよ」

「……」

「響子さん?」

 食い入るように絵があった空白を見つめる響子さん。

「何かあるんですか?」

 俺も一緒に並んで見てみるが特になにも見えない。響子さんは急に歩き出すと、絵があった壁を指ですーっとなぞる。

「……なるほどね」

 そういって不敵に笑った。

「響子さん! なにかわかったんですか?」

「そうね……まあ、後で教えるわ。そんなことより……これ見て」

 響子さんは何を理解したのか気になったが、それ以上に彼女が足でどうかしたものが気になった。

 カーペットを乱暴に足ではがすと、そこには隠し扉のようなものがあった。しかし……。

「僕、確かにこの場所見ましたけど、何もありませんでしたよ!」

「ふーん。やっぱりね」

「な、なにがですか?」

 さっきから響子さんは含みの或る言い方をするだけで、全く教えてくれない。

 響子さんが隠し扉を開けると中は、縦長の通路になっており梯子がかかっていた。底は暗く何も見えない。

 彼女はライターで煙草に火を付けると、それを穴へ落とす。

 煙草の光はだんだん小さくなり、五秒ぐらい経つと動かなくなった。

「うん。どうやら底は浅いようね」

 そう言って、梯子の強度を確かめる。どうやら降りる気らしい。

「響子さん、どうしたんですか? めんどくさいんじゃ……?」

「そうね、確かにめんどくさいわ。でも、私は興味をもったこと、そして……売られた喧嘩は買うつもりよ」

 淡々とそう言い残して響子さんは梯子を下っていった……。

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