第4話 嵐の前
近くのコンビニで安いビニール傘を買って、事務所まで返ってきた。事務所には明かりがついておらず、俺が電気を付けるとソファーでいびきをあげている響子さんを見つけた。
「響子さん、こんなところで寝てたら風邪ひきますよ」
俺は響子さんを揺らすが、起きない。しょうがないので毛布を被せた。
幸せそうに眠る響子さんを見ながら、今日の出来事を振り返ってみた。消えた絵画、何も盗まないように指示を受けた空き巣、指示を出した謎の男。いったいどうなっているんだ?
カーテンを開け、外を見る。外には雑居ビルやら住宅が闇の世界に横たわっていた。
とりあえず、一晩寝ればどうにかなるか! そんな楽観的な考えで眠ることにした。
「おはよう……」
「おはようございます」
目をこする響子さん。とても眠そうだ。
俺はお湯を沸かし、紅茶を二人分入れる。響子さんはストレイト。俺は砂糖を少し入れるのが好きだったりする。
「ほら、これ飲んで目を覚ましてください」
「は~い。ありがとー」
響子さんはそう言って欠伸をして、少しずつ飲み始めた。響子さんは猫舌なのだ。
「ところで、昨日の調査はどうなったの?」
俺がキッチンの洗面台に寄りかかって飲んでいると響子さんにそう聞かれた。
「いやー、実はですね……」
俺は響子さんに昨日の出来事を話した。
「ふーん。なるほど。で、これからどうするの?」
「それなんですけど、もう一回十文字家に行ってみようかと思って」
「十文字家に? なんで?」
「いえ、とりあえず報告だけでもしとこうかと思って。ちょっとこのままだと依頼が完遂出来そうにないので。……それに竹内さん、少し怪しいと思うんです」
今のところ手がかりは完全にない。唯一の手がかりは空き巣だが、今は警察の管轄内なので手出しはできない。つまり、俺の中で迷宮入りが確定したのだ。だが、あの客室、あそこに事件を解く鍵があるそう確信している。
「そっか。じゃあ頑張って行ってき——」
ソファーに寝転がりそうなになった響子さんの腕を俺は掴んだ。
「なに、寝ようとしてるんですか」
「えっと……なあに?」
「依頼の報告に行くんですよ! 所長がいないと話になりません」
「え~!? そんなあ!? 代理じゃダメ? 弓削に行かせるから!」
「だめです」
「そうだ! 人形! 人形じゃだめかな? 私が遠隔操作して人形に代わりに行かせるの! 名案じゃない?」
「そんな魔術使えないでしょ? ほら、行きますよ」
俺は響子さんの首根っこを引っ張り、引きずりながら外へ向かった。
「あー! 私の安息の土地~!」
「……いやいや。早く準備してください。このままいくんですか?」
「いや。そうじゃないよ奏多くん」
すると、響子さんは突然俺が掴んでいた手を振りほどき、立ち上がった。あまりのことだったので俺は驚いた。だって、今まで響子さんが俺の強硬策に反抗したのは初めてだったからだ。
「そうじゃないて、どういうことですか?」
「十文字家には行くわよ。だけど、今じゃない」
「今じゃない? じゃあ、もしかして……」
「ええ」と短く呟くと響子さんはこっちらの顔を見てこう言った。
「夕方よ」
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