第11話 後始末
「本当にありがとうございます。これからは罪を償いつつ、子供に関わる仕事をしていくつもりです」と言い、葉山さんは去って行った。
警察に自首することも考えたが、自分にはまだやることがあるとやめたそうだ。
「はあー疲れたー!」
さすがの俺も疲れが溜まる。ソファーに横になると、顔や体が痛んだ。
そう言えば、田中に怪我させらたことを今思い出した。 それほど、疲れていたのだ。
すると、 カランカラン。ベルが鳴る。
葉山さんが帰って来たのかと思ったがそうではない。
緑のドレスのようなものを着た銀髪の女性がニコニコしながら玄関に立っていた。
「ごきげんよう」
「あ、神坂さん。こんばんは」
魔術師監視員、神坂弓削。『日本魔術協会』から派遣された魔術師で、響子さんが悪いことをしてないか監視しているらいし。
「これを。つまらないものですが」
そう言うと、神坂さんは紅茶の茶葉が入ったビンをくれた。
「あ、ありがとうございます。ちょうど切れて……。紅茶、入れましょうか?」
「ありがとうございます。 わたくし嬉しいです」
神坂さんはこんな感じでたまにお茶を飲みに来る。
しかし、こんな遅くに来るのは珍しい。
「お、弓削。来たの?」
奥にいた響子さんがこちらに来る。
「そうですわ。響ちゃんにお手紙がありまして」
「そう」
響子さんは手紙を受け取ると、机に置いた。
「ところで、弓削に頼みがあるのだけど」
「なんでしょう?」
「今回の件、と『川坂ハーメルン事件』の被害者全員に、水を沢山飲ませて」
「それは緊急でしょうか?」
「うん、緊急」
「承りましたわ。お紅茶を飲んだらやりますわね?」
俺は湧いたお湯をティーポットに入れ、茶葉を入れ、紅茶を作る。
しばらく置いて、それをカップに注ぎ、二人に出す。
「ありがとうございますわ」
「ありがとー。奏多くん」
俺への感謝の言葉を挟みつつ、話は続く。
「それでさっきの件だけど、私は事件に黒幕がいると睨んでいる。それも我々と同じ魔術師が」
「それについてはこちらも把握しております。田中次郎。『日本魔道協会』にも該当者はおりませんでした」
「さすが腹黒弓削」
「ああん? 今のどこが腹黒い……のですわ?」
誤魔化した。どすがきいた声を無理やりお嬢様声で誤魔化したよこの人。
さすがは『毒蜘蛛の女王』と言われる異名を持つ人だ。
「いや、褒め言葉で言ったんだけど……」
「どこが!? ……まあ、その話は置いておいて、そうなるとフリーランスかあるいはーー」
「いや。田中次郎はただの駒よ。『水』を操る、しかも、魔術師でもない一般人を魔術師として使えるやつ。そいつの調査も頼むわ」
「かしこまりましたわ」
そう言うと、神坂さんはカップを飲み乾し、立ち上がる。
「それではごきげんよう。奏多くんもまた」
「ああ。じゃあね」
「はい。また」
そう言うと来訪者は去って行った。
「さて、奏多くん。そろそろあれといきましょう」
「何でか? あれって?」
「決まっているじゃない……六百万の山分けよ!」
ガシッと俺は響子さんが持っていたキャリーバッグを取り上げた。
「なに言ってるんですか! 忘れたんですか? 事務所は赤字なんです。ですから、これは全て事務所に回します」
「えー!? ちょっとばかりいいじゃない! 奏多くんのケチ!」
「ケチでも馬鹿でも構いませんよ。てっ、こら!」
響子さんは、意地でも欲しいのか、俺が奪ったキャリーバッグを取り戻そうとする。
「離してください!」
「それはこっちのセリフじゃあ!」
お互いが力を入れて引っ張った結果、力の強い響子さんがバッグを手に入れたが……。
「あっ!」
結局、お互い倒れ、近くのテーブルをひっくり返してしまった。
そこに、一枚の手紙が舞い落ちる。
「痛たた・・・・・・。あれ? そう言えばこの手紙、なんだろう?」
俺は神坂さんが持ってきた手紙を開き・・・・・・気絶した。
「あれ? 奏多くん! ちょっと! 奏多くん!」
遠くで響子さんの声が聞こえる。
手紙にはこう書いてあった。
『今事件に置いて、朱音響子が破壊した民家の私物、建物、及び記憶処理などの費用に対する請求として六百万円を要求する 日本魔術協会 会長 黒崎道元』
そう、報酬全額の請求書だった。
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