第10話 真相
「私は子供たちから情報を聞き、一人になるタイミングを組織に教え、清掃車に偽装した組織が車で誘拐させる。言わば情報役だった」
「やっぱりそうだったんですね」
「ええ」
「しかし、どうしてそんなあなたが依頼を?」
「それを話せば長くなります……。私は若い頃、貧乏でした。両親は既に死に、頼れる親族もなく、借金もある中、私は幼い弟たちに食べさせてやらないといけなませんでした。生活保護や、日払いバイトをして何とかやっていましたが、弟たちは常に腹ペコ。そこで、窃盗や強盗をして荒稼ぎしました。それが警察にばれ、私は刑務所に服役しました」
俺はその話を聞いて同情する。
もし、両親が死んで、働いても、働いても生活が一杯一杯で、妹が「お腹が空いた」なんて言われたら俺はどうするだろうか?
だから、その話がとても他人事とは感じなかった。
「幸い、友人が弟たちを見てくれたので、私は心置きなく自身の罪を償うため、これからは真面目に生きようと誓いました。刑務所から出て、清掃員として働く中、上谷と出会いました」
上谷と言えば、『川坂ハーメルン事件』の犯人の男だったはずだ。
「上谷と私は家が貧乏で、借金があったり、両親がいなかったりと境遇が似ていたため、すぐに仲良くなりました。彼は『自分と同じ人がでないように、いつか孤児院を建てたい』そんな夢を語る男でした。しかしある日……」
「ある日?」
「上谷が突然辞職し、連絡がつかなくなりました。なんかあったのだろうと思い彼の家を訪ねると、怪しい男たちに連れてかれている上谷を見つました」
俺には心当たりがあったが、聞かずにはいられなかった。
「その怪しい連中とは……?」
「田中次郎。人身売買ビジネスを手掛ける組織です」
「つまり『川坂ハーメルン事件』と今回の事件は繋がっていた?」
「はい。私は上谷を助けるため、アジトの工場に乗り込みました。しかし、私は捕まり、『水』を飲まされました」
「やはり、『水』が呪いの正体か」
響子さんが納得するが、俺にはよくわからない。
「響子さん。どういうことですか?」
「私も詳しいことはわからないけど、『水』使いの魔術師が作った水。それを体の一部にすることで相手を操ることができる魔術があると。多分それで、定期的に『水』を飲ませ、命令に背くと死ぬようにしてあった、みたいなところかしら」
そこで、理解した。葉山さんのラベルの剥がれたペットボトル、アジトに積まれたミネラルウォーター。情報を話そうとすると死んだ犯人。それじゃあ……。
「じゃあ、葉山さんがこんな回りくどいことをしたのは……」
「はい。喋ることができなかったからです」
それなら合点がいく。まず、田中次郎と偽名を使い、調べると指名手配にたどり着く。彼なりのヒントだったのだ。それでわざと怪しくしていたのか。
「でも、それを話しても、どうして大丈夫なんですか?」
「それはねえ、奏多くん。君が水を飲んでしばらくするとどうなるか、わかる?」
俺は足りない頭をフルで稼働させる。
「水を飲んだあと……? あ、排尿!」
「そう。せっかく命令に従わせても、水が外に出たらお終い。そこで、常にその『水』を飲むように命令し、それ以外の水を飲まないようにと命令もした」
「あ、それで上谷さんの家は、蛇口が塞がっていたんですね。違う水を飲んで、『水』が体から無くならないように」
「そう。大正解」
「なるほど。そういう理屈だったんですね……」
田中さんはそう言い、感嘆する。
「それで、この事務所に来たと」
「いえ、それもあるのですが、私は無理やりとはいえ、大好きな子供たちが浚われるのに絶えることができませんでした。だけど、仕方ないと諦めていた矢先、『川坂ハーメルン事件』が起きました」
『川坂ハーメルン事件』、上谷さんが自白し、発覚した事件。『水』の話が本当だとすると、上谷さんは操られて、罪を着せられ、あげく自殺したということになる。
「私はそれで決心がつきました。なんとしても田中に復讐してやると」
「十九時と指定したのは、その時間に田中たちが逃げると知っていたからですね?」
響子さんが鋭く聞く。
「はい。そんなところです。田中は取り逃がしましたが、私は子供たちが無事だった。それだけでよかったです」
こうして俺たちの長い、長い一日は終了した。
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