第9話 依頼達成

「おい。これはどういう事だ?」

 高級車から降りて来た古鷹さんの第一声だった。

「あの、事件を解決したので、後処理を……」

「そんなこと、どうだっていい。おい、俺の恰好をみろ」

 俺は古鷹さんの衣装を見る。白いジャケットに、白い帽子を被っている。これは……。

「寅さん?」

「ぶち殺すぞ、お前。響子さんとのデートと聞いてこっちは来たんだぞ」

 古鷹さんは俺を殴る勢いだったが、拳を引っ込めた。

「ちっ。怪我したことに感謝すんだな」

「ありがとうございます」

「で、これはどういう事だ」

 古鷹があたりを見渡す。

「実は……」

「あ、古鷹さん。こんばんは」

 響子さんがこちらに来る。すると、古鷹さんは露骨にもじもじし始めた。

「ど、どうも……響子さん」

「実は私が派手にやってしまってですね、本当にすみません」

「い、いえ! とんでもございません」

「古鷹さんにご迷惑をおかけして本当に申し訳ございません」

 響子さんが頭を下げると、古鷹さんは焦る。

「そ、そんな。私はこれでも正義の味方である警察なんでしてね、当たり前ですよ、こんなこと。アハハ」

 あ、俺と随分態度が違う。

「ありがとうございます。では、この場は任せますね」

「は、はい! 喜んで!」

 ビシッと敬礼をする古鷹さんを見て、響子さんは場を離れた。

 本当に面白いな、この人。


「古鷹さんが警察を呼んだので、もう大丈夫だと思います」

 俺は響子さんの元へ行った。

「ありがとう。あと、何か胸が隠せるもの、持ってない?」

 響子さんはそう言うと、破れた衣類を見せた。

「……持ってないです」

「はー。仕方ない。犯人連中の衣類でも借りようかなー」

 先ほどまで、人間とは思えない女性はいつも通りになっていた。

「あ、そうだ奏多くん」

「何ですか?」

「さっきはありがとう。時間を稼いでくれて」

「……! い、いえ。僕にはあれぐらいしかできませんから」

 俺は恥ずかしくなって、頭をポリポリかく。まさかお礼を言われるとは思ってなかった。

『第三の腕』。響子さんの必殺技の一つ。

 自身の血を使い、六本の腕を生成する。それぞれの腕の先は変形が可能。しかも使用時は不死身になるオマケつき。ただ、夜にしか使えないという弱点がある。 僕はそのため、時間稼ぎをしたのだ。

「そ、そうだ! 響子さん、どうして僕がピンチだと……」

「それはね……」

 響子さんは、ポケットから僕が持っているのと同じお守りを見せた。

「これで、奏多くんの情報を逐一把握できたのよ」

「……はあ、なるほど」

 やはり、響子さんは抜け目がない。俺がどうなるかまでわかっていたわけだ。

 ……待てよ。そうなると、響子さんはわかって俺を行かせたんじゃ?

 まあ、深くは考えるのはやめておこう。

「そ、そうだ! 響子さん。警察が来る前に戻りましょ? 依頼も達成しましたし」

 俺は、響子さんへの疑心を振り払い、話を振る。

「あ、そうだ。一つ犯人に聞いておかないと」

 響子さんは、犯人の一人にしゃがみ話しかける。

「これを仕組んだやつは誰?」

 それは驚くべきことだった。

「何言ってんですか。首謀者は田中じゃ――」

「田中はただの駒よ」

 きっぱり言う、響子さん。それを見て犯人の一人が同意する。

「そうだ! 俺たちは悪くない! 悪いのは俺たちに命令したあの女ーー」

 ぐはっ! 突然、血を吐き出す犯人。

 血管の血管という血管が、目で見えるぐらい吹き出し破裂寸前まで行く。

 ここから先は俺は目をつぶったからわからなかった。いや、わかりたくもなかった。

 目を開けると、全身という全身から血を吹き出した、そいつの姿だった。

「ひっい!」

 犯人たちはそれを見て、顔を青くし、震え出した。

「響子さん!? どういうことですか!? 一体何が!?」

「……魔術による呪い。なるほど」

「響子さん! 質問にーー」

「これ以上ここにいるのは無用よ。事務所に戻ろ?」

 そう言うと、響子さんは立ち上がり先にいってしまう。

「ちょっと! 響子さん!」

 慌てて追いかける俺。その時、柏木絵里ちゃんとすれ違う。

「お兄ちゃん! ありがとう!」

 柏木絵里ちゃんは笑顔で手を振ってくれた。俺は手を振り替えし、少し晴れやかな気持ちで響子さんを追った。

 二十時になると、ベル鳴る。 もちろん来たのは依頼人だった。

 体格は大柄。その上にぶかぶかのジャンパーを着こんでいる。頭はスキンヘッド。目はとても鋭く、刃のような鋭さがある中年男性だ。

服装自体は朝と変わらなかったが、今回は大きなショルダーバッグを持っている。

「依頼を無事に達成して頂きありがとうございます。こちらが報酬です」

 どこからその情報を聞いたのかわからないが、依頼人の田中さんは知っていたようだ。

 ショルダーバッグが机に置かれ、鞄が開かれる。 中には約束通り大量の札束が入っていた。

「はい。確かに受け取りました」

 響子さんが笑顔でそう言うと、田中さんはお辞儀をする。すると突然響子さんがある質問をした。

「田中さん。実はあなた、今回の誘拐事件のグループの仲間だったんじゃないですか?」

「響子さん! あなた何を!?」

 それはとても信じられないことだ。

 依頼人が関係者? でも、どうして?

 いや、もしこの男が……。

 しかし、田中さんの態度は至って冷静だった。

「何の話やら? 私には関係ない話ですね。では、私はこれでーー!?」

 田中さんは肩をすくめると帰ろうとする。

だが突然、響子さんはソファーから立ち上がり、田中さんを羽交い締めにした。

「な、何の真似ですか!?」

 俺がたちまち声をあげる。だが、響子さんの返答は予想外のものだった。

「奏多くん! 水をコップに入れて持って来て!」

「え!?」

「いいから!」

 俺はよくわからないまま、コップに水を入れ、響子さんに持ってくる。

 すると、響子さん水を田中の口に無理やり注ぎ込む。

「ん!? んー!?」

 暴れる田中を響子さんは取り押さえ、遂に水を飲ませた。

 そして、田中さんを離す。彼は荒い息を吐いて倒れこむ。

「い、一体何すんだ!」

「これで、話してもらえますよね? 葉山和夫さん?」

「!? なぜ、それを……」

 田中さん……いや、葉山さんは激しく動揺する。

「安心してください。あなたの毒は取り除きました。これで話せるはずです」

「……本当か?」

「ええ」

 葉山は黙り込む。どうやら言うか悩んでいるようだ。

「……わかった言おう。そうだ、私は……。私は……。か、関係……関係者だ!!」

 葉山さんは恐る恐る言いかけ、最後には大声でそう答えた。

「ね? 大丈夫でしょ? 事件の全容、話してもらえますか?」

 葉山さんは自虐気味に笑った。

「ハハハ。やっぱり同じ魔女には敵わないな」

 そして葉山は事件について語りだした。

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