第6話 廃工場にて
タクシーで約二十分のところに目的地はあった。
俺は腕時計を確認する。
十七時三十五分。残り一時間十五分。
外は、日が傾きかけた夕方。カラスの声が遠くで聞こえる。
これで、ここに柏木絵里ちゃんがいないのなら依頼は失敗になってしまう。
俺は気を引き締め、頬を両手でピシッと叩いた。
「よし!」
俺は工場廃墟に入っていった。
工場廃墟は全体的にかなり荒れ果てていた。 落書きや、さびたドラム缶、壊れた車などが転がっている。
そんな中にまだ新しい物を見つける。そう、例の清掃車だ。
場所が合っていたことに安堵し、工場の扉を開けようとすると、中で話し声がした。
俺はゆっくりと扉を開け、中の様子を探る。
工場内部も荒れ果てており、埃を被ったいろいろな物がごちゃごちゃと並んでいる。……こんな状況じゃなければ掃除したい。
そんな中で、黒い格好をした男たちが慌ただしく箱に物を詰めている。
こいつら柏木絵里ちゃんをさらった犯人たちなのだろうか? それともこの工場の関係者か?
俺は積んであるラベルのないミネラルウォーターのペットボトルの隙間から、様子を伺うと、あるものが見えた。
男たちの奥の部屋に、手を縛られ、口を塞がれ、並べられている数人の子供たちの姿があった。
その中に、柏木絵里ちゃんを見つけた。
やっぱりこいつらが……。
しかし、男たちは五人。とてもじゃないが太刀打ちできない。
響子さんみたいに魔術が使えればどうにかできるかもしれないけど、俺が使える魔術は……。
うん? 待てよ。
とても良い作戦が頭に浮かんだ。
「よし!」
俺はドキドキする心臓を抑え、男たちの前に飛び出した。
男たちは俺を見て驚くが、俺は構わず指を鳴らす。
ドガーン!
爆発音が響き渡る。
「な、なんだ!?」
「サツか!?」
慌てふためく男たちを煙が襲う。
「ゲフッ! ゲフッ! 何だ!? 何が! ゲフッ!」
「誰か! 門を開けろ!」
辺りからは男たちの咳き込む声が聞こえる。
「今だ!」
俺はハンカチで口を抑え、子供たちのところへいった。
「……!」
子供たちは俺を見て怖がる。
「大丈夫! 俺は味方だよ。さあ、逃げよう」
俺は子供たちの縄を一人つつ解こうとしたが、上手くいかない。
何とか一人縄を解き、外に逃げるよう言う。
その子は頷くと、口を塞いでいた布で、煙の向こうへ消えていく。
さあ、あと四人。
俺が懸命に解こうとした時、門が開く音がし、煙が外へ逃げる。
そして、気が付くと銃口が向けられているのがわかった。
四人の男たちが俺と子供たちを囲い、銃を向けていた。
その男の中に見覚えのあるものがいた。
指名手配書で見た田中次郎。 小柄で猿のような顔をした男だ。
俺は仕方なく、手をあげるしかなかった。
男の一人が俺を拘束し、子供たちと並べる。
「おい、お前なんだ?」
田中が俺にそう聞いてくる。
「子供たちを助けに来た」
それを聞くと、四人の男は笑いだす。
「何がおかしい!」
「いやー、素晴らしい。実に素晴らしい。何という善の心! 感動しちゃう……ね!」
「ぐっ!」
バンッ! と田中に顔を思いっきり蹴られる。
痛くて、蹴られたところがヒリヒリする。
「俺はそう言う偽善が大嫌いなんだよ! 人間は欲望に忠実じゃないと、なあ?」
もう一発、顔に蹴りを入れられる。
どこか切れたのだろうか。口が血の味がする。
「どうした? 偽善者くん? 反撃しないと、子供たち助けらないよ? あ、反撃できないのかあ! ごめん! ごめん!」
また、顔に蹴りが入った。
だんだんと感覚がマヒしているのがわかる。
だが、泣かなかった。命乞いはしなかった。
俺は何を言っても面白がることを理解し、ただ、ただ、鋭い目でやつらを睨み付けた。
「ちっ。面白くねーな。もっと泣いたりしねーのかよ」
「次郎。時間だ。こいつ、どうする? 連れていくか?」
隣で見ていたサングラスの男が田中に耳打ちする。
「馬鹿野郎。あいつには子供だけという約束だ」
「じゃあ、この男は……」
「殺すしかねーよなぁ」
田中が俺に銃口を向けた。
「じゃあな偽善者。素直になれば殺さないで、オモチャになれたによぉ。残念」
俺はもうだめだと目を瞑り、歯を食いしばる。 そして強くお守りを握りしめた。
バン! と乾いた音が鳴り響いた。
だが、それは俺が打たれて死ぬ音ではなかった。
恐る恐る目を開けると、田中たちは皆振り返り、門を見つめている。
門には何かがぶつかった跡があり、大きくへこんでいた。
それが人間を吹っ飛ばしてできたものだと気が付く頃には、門は粉々に破壊された。
「な、なんだ!?」
「門が……」
大の男たちはわなわな震え驚く。田中を除いて。
カツン、カツンと音を立て、門の破壊者が姿を表す。
全身に蛇を巻いた女性が歩いてきた。いや、ただの蛇ではない。
『三璧火炎龍』
炎だ。全てが炎で構成された大きな蛇を体の周りにうねらせている女性だ。
女性の長い髪は、炎の光で照らされ、赤く黒々と燃えているよだった。
「私の助手を随分と可愛がってくれたみたいじゃない?」
彼女——響子さんはそう言うと不敵な笑みを見せた。
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