第4話 調査2
まずは、『川坂ハーメルン事件』を調べるため、川坂市に行った。
だが、誘拐された子供たちには残念ながら話を聞くことができなかった。精神上の理由だそうだ。どんな酷いことをされたのか憤る。
もし、この事件に柏木絵里ちゃんが関わっているなら、早く解決しないと。
俺は足早に鬼立に戻り、古鷹さんにもらった情報を元に、葉山という男をとりあえず調べてみることにした。
葉山は『鬼立児童連続行方不明事件』に関わっている容疑者だが、アリバイがある。 そのアリバイが「近所の人や、先生と話していた」というものだった。
「あら? 葉山さん? 葉山さんはね……とてもいい人ですよ」
俺が加山小学校に戻り、近所の人に葉山について聞いてみることにする。
近所に住む、熊本さん。六十代あたり。女性。 一般的な瓦屋根の二階建ての家に一人で住んでいる。
熊本さんは、俺の話しに快く乗ってくれた。
「葉山さんね、近所の人から子供たちにも人気があるの。凄い真面目な人でねえ。顔も恐くて……。でも、とってもいい人よ。手が空いたら重いものとか持ってくれるし。それに……」
玄関で楽しそうに笑う熊本さん。 どうやら、葉山は本職の清掃から、近所の人の手伝いなど何でもやっているらしい。今にしては珍しい学校と地域の関係だ。
「それでね、この前縄跳び壊して泣いてる子にね、持っている材料で、縄跳びを作ったことがあってねえ。いやあれはすごかったわあ。渡された子、大喜びでね。あ! そん時に写真撮ったのよ! これこれ!」
熊本さんは、スマホを使い、写真を見せる。
最近、高齢者でもスマホを使うのをよく見るなと思いながら写真を見た俺は、衝撃的なものを目にすることになる。
「これがその子供で、そしてこれが葉山さん!」
写真には、縄跳びをもった男の子と、五十代の男性が映った写真があった。 校門で撮ったのだろうか? 学校の名前が書かれた看板が映っている。
端の方には、『幸せクリーニング』と書かれた車が停めてある。多分、葉山の清掃会社の車だろう。
そして問題の男、葉山は体格が大柄。その上にぶかぶかの作業着を着こんでいる。頭はスキンヘッド。目はとても鋭く、刃のような鋭さがある中年男性だった。
そう、依頼人田中次郎にそっくりだったのだ。
ちょうど、その時壁時計が十五時を告げる鐘を鳴らす。残り四時間。
葉山が写る写真をコピーさせてもらい、俺は再び加山小学校に戻った。
今度は葉山のことを聞くためだ。
その話をすると、校長先生自ら話を聞いてくれることになった。
白石校長。五十代くらい男性で、白髪が目立つ。しかし、顔は若々しく感じた。
再び応接室に通された俺は白石校長の話を聞く。
「それで、葉山くんについてですか?」
「はい。お願いします」
「話せることは刑事さんに話したのですが……」
そう言って白石校長は、話をしてくれた。
葉山は、ここ数ヶ月前から清掃員として水曜日、木曜日にこの小学校に来ている。
派遣元は『幸せクリーニング』。他にも違う小学校に行っているらしい。
しかし、それ以外は熊本さんや、古鷹さんに聞いた情報しか得られなかった。
「お話ありがとうございます。最後に確認なんですが……」
俺は、白石校長に先ほどコピーした写真を渡す。
「この男が、葉山で間違いありませんか?」
念のため、葉山本人か確認が取りたかった。未だにこの男が葉山だと信じられていない自分がいたからだ。
「はい。確かに葉山くんですね……おや?」
突然、白石校長が驚きの声をあげた。
「どうか、しましたか?」
すると、白石校長は写真のある所を指さす。
「私、こんなもの初めてみましたよ。確か、あそこにこんなものはなかったはずですが……」
白石校長が指差したもの。それは『幸せクリーニング』と書かれた清掃車だった。
「はい。確かに我が社では、そのような清掃車は存在しません」
応接室から出た俺は『幸せクリーニング』に車の件を訪ねるとビンゴだった。
「そうですか……。ありがとうございます。あの、ところで、葉山さんに連絡がつけられたりしませんか?」
そう言うと、電話相手の反応は早かった。
「申し訳ございません……」
個人情報云々だろう。今の世の中はだいたいこんな感じだ。
用は済んだ。重大な情報も手に入ったからよしとしよう。俺が電話を切ろうとすると、電話から話の続きが聞こえる。
「葉山はついこの間退職してしまい、連絡がつきません」と。
スマホの画面は、十六時十分だった。あと、二時間五十分。
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