第12話 理由

「あれから長い年月が経ち、神様はやっと私の願いを叶えてくれた。でも分からない。どうしてこのタイミングなのか」

天使は私に微笑んだ。

「それはきっとセイが優しさと純粋さを忘れなかったからね。神様は全部見ているわ。あなたの心の傷も、周りへ愛情を注ぐ姿も。そしてちょっと焦ったのかもね」

「焦った?どうして?」

「あなたが自分の左胸を刺そうとしたから」

私はハッとした。自分の胸を見下ろして、それから天使に視線を移した。

「……知ってたの?」

「ええ、人間のことなんて全てお見通しよ。勿論、あなたのことも。でも理由がわからないわ。どうして死を選ぼうとしたの?」

私はパパの方を見た。パパは口元に笑みをたたえてこちらを見ていた。

「父のことを忘れていくのが嫌でたまらなかった。そんな自分を薄情だと思い、許せなかった。それともう一つ。自分が歳を重ねていく中で、ママも大事な大人たちもみんな年老いていく。そうやってゆっくりと、でも確かに死に近づいて、やがてその時を迎えるのだとしたら、私はその姿を見たくない。生きていくにはその事が重すぎた。私の中では自分の生命なんて軽かった」

天使は困ったように笑った。

「馬鹿ね。救いようのない馬鹿だわ」

罵倒しながらもその笑顔には愛があった。

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