第10話 どうして
「最後の記憶はね、ママとカナデとお墓参り……の、はずなんだけど……」
私は困惑していた。
目の前に広がる光景に覚えがなかったからだ。
お墓参りの様子じゃない。知らない景色。
真っ白な世界が一転して、濃紺に塗りつぶされたみたい。
天使と私は真上を見上げた。
どこまでも広がる濃紺の中に大きな金色の円と小さな宝石が散りばめられている。これは夜空だ。でもここまではっきりと模様を確認できる月も満天の星空も見たことがない。
「これはなんの記憶なの?」
天使は星を一つ一つ数えながら私に尋ねる。
「知らない……私の記憶にこんな景色は無いはず……」
私たちはこの夜空に魅入っていた。
あまりにも綺麗すぎた。
「パパと一緒に見たかったな。ママもカナデも呼んでさ」
私はふふっと笑った。その笑い声に重なる、もう一人の笑い声。天使がきょとんとした顔でこちらを見上げている。え?
天使が笑ったんじゃないなら、誰……?
「セイ」
突然名前を呼ばれ、反射的に振り返った。肩がビクッと揺れたのは、その声がするのは現実的に有り得なかったから。
ドクドクドクドク。鼓動が早い。背中に冷たい汗が流れる。ゾッとした。
「ーーパパ?」
振り返った先を見て、自分の目が大きく開くのを感じた。
パパによく似た、その大きな目がもっと大きくなって、視界が涙で歪んでいく。
そこに立っていたのは確かにパパだった。
背の高い、細い、いつか遠い日に見たスーツ姿のパパ。
そんな、どうして……。どうしてどうしてどうして。
「天使、これは……神様の粋な計らい?」
「知らないわ。私は何も聞いていない」
天使は首を横に振った。
「セイ。僕だよ。パパだよ」
パパはそう言いながら私に一歩、また一歩と近付いてくる。私は一歩だけ前に出て、ゆらゆらと手を伸ばした。
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