第6話 自称天使
ある日天使が舞い降りた。
5月の半ばの父が亡くなったあの日。
私はお墓参りには行けないから、自分で作った簡素な仏壇に手を合わせていた。
いつもは大事に封筒に入れて保管している、数少ないパパの写真を机の上に並べる。どの顔も私とよく似てて、遺伝を感じる。顔のパーツで言えば鼻だけはママに似ている。私はたしかにパパとママの子だ。
「パパ……」
私は写真の中のパパを撫でた。
父親の役目は重い。子育て、奥さんとの関係、仕事。多分それだけじゃない。それら全てから手を引いた父は今頃天国で何を思っているんだろう。死ぬって何だ。想像もつかない。
「はあ……」
ため息をついた時。
「あら、可愛いお嬢さん。ため息なんて似合わないわよ」
目の前にたてかけていた、一番大きなパパの写真の裏から天使はひょっこり顔を出した。
「あ、あんた誰」
「私は天使!よろしう」
天使はそう言うといきなりパパへのお供えの食べ物を手に取って、もぐもぐと食べ始めた。
「んん、これ美味しいわね!」
「え、い、意味わからないし!何が天使よ!どこからどう見てもコスプレでしょ!どこから入ってきたのよ、この不法侵入者」
混乱する私をよそに、自称天使は次々とお供えを食べていく。
「それはパパへのお供え物……って、全部食べてるし!悪いけど警察呼ぶからね!あんたどこから来たの!」
「空の上」
「名前は!」
「んー、ややこしいから天使でいいわ」
「……年齢は?あんた学生?社会人?」
「愚問ね」
天使はため息をつく私の頭をよしよし、と撫でて「そりゃ混乱もするわよね」と小さな声で言った。
「私はある人から頼まれてここに来たの。あなた……コホン、新川星の願いを聞くこと」
「私の願い……?」
私は110番を押すのをやめて天使に向き合った。
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