第4話 セイ

「ねえ、パパ」

小さな私はその大切な人に微笑みかける。

「なあに?セイ」

セイ。星と書いてセイ。それが私の名前。パパとママがつけてくれた、私のとっても大事な名前。

私はにっこり笑って小さな手で鉛筆を握る。目の前の大きな白い紙に丁寧に自分の名前を書いた。決してきれいには書けないけど、書き終わった自分の字を見て誇らしげに息を吐いた。

「パパ、書けた」

パパはどれどれ、と私の手元を覗き込む。

「新川星。セイの名前だね。僕の大事なセイ」

パパは満足そうに笑った。

「ナツ、見てくれ。セイの筆跡は僕に似ている」

パパはママを名前で呼ぶ。私みたいにママとは呼ばない。それはもう、二人が夫婦じゃないから?お互いをパパ、ママ、と呼んでたあの頃にはもう戻れないの?

私は急に悲しくなって、途端に眠くなった。

「パパ、眠たい……」

私はパパに抱きついた。パパの温もりが私の体に移る。パパの匂いがする。それがとても幸せだった。

「セイ、寝てもいいよ。ゆっくりおやすみ」

パパは私の頭を撫でておでこにキスをした。

遠い遠い記憶だった。

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