第2話 願い
そばにいてほしいだけだった。
なにも、高級車が欲しいとか石油王と結婚したいとか、そんな突飛な願いではなかった。
一般的に「普通」とか「当たり前」に分類される状況を願ってるだけ。
そう、あなたがそばにいるという、ただそれだけを願っていた。
もしその願いが叶うなら、きっと私はなんだってする。もう二度と幸せを感じることができなくなってもいい。健康な身体も要らない。権力も富も名声も必要ない。それでも、きっと何をしたって、悪魔に魂を売ったとしてももう叶わない願いなのが切ない。
目を覚まし、一番に気付くこと。それは自分が涙を流していること。毎日。きっと明日も。
フラッシュバックするように頭に流れ込むあの景色を振り払うために、首を左右に振る。
違う、違うの。私はあんなの思い出したくない。でも、忘れたくもない。
そんな矛盾を抱えて、それでも生きていかなければならないことに絶望する。何事も義務になっては楽しくない。宿題も、通学も、友達に会うことでさえ。強いられるとつまらない。それは生きることも例外ではないのだ。
パジャマを脱ぎながら感じる、指先に感じるボタンの硬い感触、布の肌触り、指の動かし方、朝の香り、自分が呼吸している音。その全てが私に告げる。「お前は生きている」と。私は自分に問いかける。「私が生きる意味とは?価値とは?」答えの出ないその問いに、私は自嘲してまた目を閉じた。もう一度眠りにつくために。
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