#13

#13


「お母さん、ちょっとだけお話ししよ」


「うん!」


お母さんは笑顔で受け入れてくれた。


ダイニングテーブルの椅子を少し引いて座る


お母さんは冷たいお茶を出して、私の向かい側に座った


「あのね...私、死のうとしたんだ」


「そっか......」


「でもね、助けてくれたんだ。和希が」


「和希君ってこの前の?」


「うん。和希と一緒にいるとね、すっごく楽しくて、気づくといつも笑っていて、抱きしめると安心するの」

「でも分からないの、どれだけ一緒に居ても抱きしめても、心がぎゅーって締め付けられる時があって」


「それはきっと..."恋"だよ」


「えっ?!」


「好きな人のことを思うと胸が苦しくなる。それはもう恋だよ!」


微笑ましそうに結花を見つめる


「えっ?!えっ!!!」


まさかそんなことを言われるとは思ってもいなかったから声を出して驚いてしまった


「結花も成長したね、女の子って感じ」


急に恥ずかしさが押し寄せてきて顔が真っ赤になった


「照れた顔も可愛いよ」


照れくさくて上手く喋れない


「どっちから告白したの?」


「えっ、えっと...私から....なのかな?」


面映くて両手で顔を隠した。


「私も結花くらいの頃好きな子とかいたな〜、懐かしい」


「お母さんもあった?胸が苦しくなること」


「あったと思う、もう随分前のことだか良く覚えてないけど」


私の倍以上生きてるお母さんなら恋の一つや二つしてきてるに決まってる


「結花は和希君のどんなところが好きなの?」


「えっと、、優しいところとか、話を聞いてくれるところとか」


「そっか!じゃあ結花とはお似合いかもね!」


「うん!ありがと!」


結花は満面の笑みでそう答えた。


「お母さん、おなかすいた.....」


夕飯を途中までしか食べてなかったせいで結花のお腹は空腹で限界だった


「ちょっと待っててね」


そう言うと颯爽とキッチンに向かった。


数分後にはおいしそうな料理が出てきた


「おいしい〜!」


一口食べれば自然とそんな言葉が出てくる


「ふふっ、何かこんなにおいしそうに食べてくれるのって久しぶりだなって思って」


「そう...かな?」

「頑張って笑顔を作ってたつもりだったけど、思ってた以上に笑えてなかったのかもね」


「今度海音君と会わせてよ」


「え?海音と会ってどうするの?」


「お礼が言いたくて、"結花を助けてくれてありがとうございます"って」


「そっか、伝えとくね」


ごはんを食べながら横目に答えた。


その後お風呂に入って歯磨きをして自分の部屋に戻った。


この気持ちにどう折り合いをつければ良いのかは分からないけど、悪い気持ちじゃないってことは確かだと、そう思った。



翌日。


「かーずきっ!」


駅で背後から軽く背中を押して驚かせた


「結花!」


「へへっ、昨日はごめんね。色々と」


頬を少し赤らめながら伝えた。


結花は和希の腕を引いて自分の口に和希の耳をぎりぎりまで近づけた


「大好きだよ」


和希の頬がみるみる赤くなっていく


「あれー、和希頬赤いよー」


和希は倒れるように結花を抱きしめた


「どう...したの?」


「僕も大好き」


「えっ...あ、ありがとう」


急にそんなことを言われて動揺しない人なんていないだろう


「じゃあ学校行こっか!」


人が変わったようにそう言った和希の後についていくように歩いた。


普通に授業を受けてお昼ご飯を食べてまた授業を受けて部活をして家に帰る


当たり前の日常かもしれないけど、それがすごく楽しくて幸せだった。


「結花、ちょっと良い」


雪奈に呼び止められたのは部活終わりの帰り道だった。


私と雪奈以外はみんなバイトがあり早々に帰って行った。


「和希と付き合ってるの?」


それはあまりにも直球な言葉で結花は喉に引っかかったように声が出せなくなった


「ねえ答えてよ!!結花!!」


単なる興味ではなく、怒りのような感情が混ざった表情で肩を揺らされる


「私たち親友でしょ!隠し事とかしたら絶交だから!」


雪奈の瞳は潤んでいて、ちょっとした衝撃で溢れ出してしまいそうだった


「答えて!答えろ!!」


黙っていたら、雪奈の声はどんどん大きくなっていく


「和希とはとね....つき..付き合ってるの」


正直に話した。


「やっぱり.....」


雪奈はその場に崩れ落ちるように座り込んだ


じっと結花を見つめる瞳からは大粒の涙がいくつも溢れ出ていた。


「大丈夫....?」


しゃがみ込んで雪奈と同じ高さまで視線を下ろして、ハンカチで涙を拭ってあげようと手を近づけた時


「触るな!この裏切り者!」


雪奈は結花の頬を思いっきり叩いた、結花はその衝撃で後ろに倒れて反射的に手をついた


「痛いっ!」


上手く手をつけず変に手首を捻ってしまった


「いい気味だ」


雪奈はそれだけ言い零してからどこかへ行ってしまった。


「雪奈........。」


この場に居たら、誰かに見られてしまう気がして走って学校に戻った。忘れ物を取りにきたふりをして。


誰も来ないであろう階段裏で独りで泣いた


「雪奈...雪奈......」


どれだけ泣いても止まらなくて、次第に声も抑えられなくなって。気がつけば大声を出して泣いていた。


「どうしたの結花さん?」


副担任の佐々木先生だった


「なんでもないです....」


止まらない涙を必死に袖で隠してリュックのベルトを掴んで走り去ろうとした


「待って」


もう片方のベルトを掴んで先生は言った


「離してください」


「こっちを向いて」


「嫌です、本当になんでもないですから」


「そんなに泣いているのに何にもないわけないでしょ」


「ちょっと落ち込んでただけです....もう大丈夫ですから」


「話して」


その言葉は妙な優しさに包まれていて身体がここを離れることを拒んだ、体の力が抜けていって立っていられなくなった


「話してくれる?」


そっと顔のそばで囁かれた言葉に何もかも我慢できなくなって口が勝手に動いた


「裏切り者って...言われちゃいました」

「私って最低な人間だったんですね」


「そんなことないよ」


「そんなことあるんですよ。ううん、そうとでも思わないと、私は私をなんだと思えば良いのかわからないんです」


「私は自分が何者かなんてそんな簡単に分かることじゃないと思うな」


「先生、"愛"ってなんですか?"恋"ってなんですか?"好き"ってなんですか?"友達"ってなんですか?」


「難しいこと訊くね、えーっと"愛"も"恋"も"好き"も"友達も"よくわかんないな」

「でも、よくわからないからこそ、人それぞれ色んな形があって。時には迷ったり惑わされたりするけどさ、そういうところも全部含めて"素敵な物"なんだろうなって思う」


「よくわかんないです」


「それで大丈夫だよ、私も結花さんくらいの頃は分からなかったから」


「ありがとうございました、もう遅いので帰ります」


落ち着いたのかあれだけ溢れていた涙は止まっていた。



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