#14

#14


ぴんぽーん


結花は雪奈の家を訪れていた


「何?」


雪奈はドアを少しだけ開けて顔を見せた


「さっきは本当にごめんなさい」


深く頭を下げた


「それで、どうしてあんなに怒ったのか理由を聞かせてくれないかな?もし私がなんかしたなら、それはちゃんと謝りたいから」


「そっか、入って」


「お邪魔します」


「何があったのか話してくれないかな?」


雪奈の部屋に二人きり、時間が止まった気がした。ベランダの窓から入り込んだ風がカーテンを揺らしたと同時に雪奈が口を開いた


「覚えてる?幼稚園の時にした二人だけの秘密」

「私の初恋、好きな人のこと」


「覚えてるよ、かず...」


そこまで言いかけて止まった


「もしかして、あの時のかずきって和希のこと?」


「そうだよ...」


「ごめんなさい、本当にごめんなさい。でも、和希のことは諦めない」


「結花ならそう言うと思った」

「でも和希にこの思いを伝えたい」

「でもダメだよね、和希も結花にも迷惑かけちゃう」


「伝えなきゃ....だめだよ..」

「ちゃんと伝えなきゃ」


「そんなこと言ったって.....」


「大丈夫だよ」


結花はこの前雪奈がしてくれたように雪奈を抱きしめた


「やめてよ......」


「こっちこそ、結花が独りで我慢するのを止めるまで離さないんだから...!」


「明日...伝えてみよっかな」


「うん!応援してる!!」




"明日の放課後...ちょっとだけ、良いかな?"


"良いけど、なんかあったの?"


"べつに、ちょっと話したいことがあるだけ"


"そっか"


とは言ったものの実際なんと言えば良いのか分からなかった


結局そのまま朝を迎えることになった。



放課後



「和希........」


今にも泣いてしまいそうな気持ちをどうにか堪えて和希に声をかけた


「じゃあ私は先に行ってるねっ!」


和希の隣にいた結花が和希の背中を押した。



「私ね...和希のことが、好きなの」


「ありがとう、でもごめんなさい」


和希は頭を下げた


「そうだよね...私なんか..」


雪奈はその場を走り去ろうとした


「待って!!」

「せっかく気持ち伝えてくれたんだから、これからもずっと親友でいような」


「ありがと.......」


それだけ言い残して走り去った


無我夢中で走って辿り着いたのは見覚えのある公園だった


ベンチに座ってぼーっと空を眺めた。


「やっぱり来た」


いつも聴く声が聞こえて慌てて平然を装う


「雪奈なら必ずここに来るって思ったから。それにしても懐かしいねここ、昔ここでよく一緒に遊んだよね」


そう言って雪奈の隣に座ったのは結花だった。


「なによ....私が振られて良かったね」


嫌味混じりの言葉を聞いても結花は嫌な顔一つせずに続けた


「雪奈を慰められるのは私だけかなって思って」


「なにそれ....」


「はいこれ、いっぱい泣きな。誰も見てないから」


結花はそう言って暖かそうなブランケットを渡した


少し行儀悪くベンチの上に体育座りをしてブランケットにくるまって嗚咽した


「私に独りで我慢するなって言ったのは雪奈なんだから」


「独りで我慢なんてしてないもん.....」

「ちょっと...悲しくなっただけ」


「もう、我慢しなくて良いんだよ」


いつかの日に雪奈が言ってくれた言葉をかける


「私は結花みたいに強い人間じゃないから」


「私はそんなに強くないよ」

「どうして私が和希のことを好きになったのか、教えてあげる」

「和希はね、私の生きる理由になったの」


「理由?」


「そう、"和希と一緒にいたい"。そう思った」


「いつから?」


「一週間前くらいかな」


「何があったの?」


結花は暗くなりかけている空を見つめながら自分が死のうとしたこと、偶然和希と会って助けてくれたこと。この一週間のことを全て話した。


「そっか....」


「もう泣かなくて良いの?」


雪奈の方に振り向いて訊く


「なんか...安心した」

「私が好きになった和希が今もずっと私が好きになった和希だってわかったから」


「どういうこと?」


「幼稚園の時は好きになった理由までは話してなかったよね、結花が話してくれたから私も話すね」

「私、結花と仲良くなる前は結構な人見知りでずっと親の後ろに隠れてた、幼稚園に行く時もずっと行きたくないって泣いてたの。その日はいつも以上に泣いて下駄箱の前で泣きながらお母さんにしがみついてたの、そしたらね知らない男の子が"こっちで一緒に遊ぼ"って言ってくれて、そのおかげで幼稚園に行けるようになった」


「そうだったんだ」

「なんか安心した」


さっきの雪奈みたいに言うと


「どういうこと?」


「私が好きになった和希は昔からずっと私の好きな和希だったんだってわかったから」


「そっか....私そろそろ帰るね、あとこれありがとう」


ブランケットを結花に手渡すと背中を向けて歩き出した


「待って!」


雪奈は黙ったまま脚を止めた


「本当にもう泣かなくて良いの?」


「何言ってるの?」


「だって雪奈、元気なさそうなんだもん」


「そんなこと......」


「本当かなー?」


結花は背を向けたまま立ち尽くしていた雪奈の前に飛び出して雪奈を見た


「やっぱり」


その声の言う通り雪奈の瞳からは沢山の涙が滴り頬の上で線になっていた


「何でもないから」


「何でもなくないでしょ」


「もうほっといてよ」


美月の言葉に不貞腐れた返事をする。雪奈は何かがプツンと切れた気がした


「もう..大嫌い」

「さようなら」


雪奈は小走りで逃げるようにその場を去った


「雪奈!......」


伸ばした手が雪奈に触れることはなくその場に呆然と立ち尽くす。



翌日


「雪奈は?」


登校後まっさきに夜羽に尋ねた


「今日はお休みみたい...心配だね」


「そっか....」


「なんかあったの?」


「べ..別になんにもないよ」


「ふーん」


見透かしているような夜羽の言い方に冷汗が出た。


結花は一日中気が気じゃなかった。



放課後


結花は雪奈の家に向かった



ぴんぽーん



「はい、どちら様でしょうか?」


「結花です。雪奈はいますか?」


雪奈のお母さんだった


「あら結花ちゃん!久しぶり、雪奈なら自分の部屋にいるからあがっていって」


「お邪魔します」


階段を上がって雪奈の部屋の前まで来た


ドアをノックする


「結花?」


「そうだよ」


「帰って」


冷たい声で突き放された


「どうして?...」


「結花なら解るでしょ今の私の気持ち」


「解るよ、解るからこういう時に何も言わずに隣に居てくれる人にどれだけ救われるかを良く知ってるから」


「じゃあさ、そこに居てくれない?私もドアの側に居るから」


二人はドアを一枚隔てて背中合わせに座っていた。


「結花....」


しばらくしてから雪奈が口を開いた


「うん?」


優しく頷いて応えた


「結花はさこの気持ち、どうやって乗り越えた?」


「よく分からない、私は何もかも嫌になって全部捨てようとしちゃったから」


「そうしたら楽になれる?」


「なれると思う、でも私はしなくて良かったなあって思ってる」


「どうして?」


「私が捨てようとした物は本当はすごく大切な物なんだって気づいたから」


「なにそれ....バカみたい」


「私もそう思う、本当バカみたいだよね...でもそんなバカな物に縋って生きてみるのも悪くないなって」



「二人とも、お菓子とお茶持ってきたわよー」


雪奈のお母さんの声が階段の下から聞こえてきた



ガチャ


ドアが開いて倒れるように雪奈の部屋に入った。


雪奈は背を向けてこっちを向いてくれない


「ありがとう、そこ置いといて」


一瞬だけいつもの雪奈に戻ってお母さんに言うとすぐに元に戻った


「お母さんに知られるのが嫌なだけだから」


「そっか、でもありがとう」


「この涙はどうやったら止まるの?」


「好きな人に抱きしめてもらうとかかな」


「何言って...!」


「雪奈!」


雪奈の視線の先には和希の姿があった


「えっ!..ちょっと..」


和希は雪奈を優しく抱きしめた


結花の方を見ると笑顔だった。


「大好き..」


雪奈は自然とそう言っていた


「僕も好きだ。雪奈が幼稚園の頃から僕を好きでいてくれたって知った時、本当に嬉しかった」


「ありがとう...」


雪奈を和希の背中に手を回してゆっくり抱きしめた



数秒した後



「もう離して...これ以上は結花に申し訳ないから」


「そっか、わかった」



「明日は学校来る?」


「行くかな」


「じゃあまた明日ね」


「また明日な」


玄関で少しお話をしてから雪奈は小さく手を振った


結花と和希も手を振りかえして別れた。



「結花、その...ごめん」


「どうしたの急に?」


「結花と付き合ってるのに雪奈を抱きしめたりとかして...」


「それは良いよ、そもそも私からお願いしたことだし、でもまさかあんな事まで言っちゃうなんて、彼女としてはちょっといただけないかなあー」


「ご..ごめん」


「私の親今日仕事で帰れないらしいから今からお家デートしよ、それで許してあげる」

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