#12
#12
なんとも言えない気持ちのまま数分の沈黙が流れた
ぴんぽーん!
インターホンの音がしてお母さんが玄関に向かって行った
お母さんが部屋を出て行った後に結花は起き上がってドアの鍵を閉めた。
「ごめんなさい...今は誰とも話したくないんだ」
スマホの着信音が鳴った
恐る恐る確認すると和希からの電話だった
「もしもし......」
「結花!良かった出てくれて、本当にごめんな..その、辛いことを話したりして」
「ううん、気にしないで。私こそごめんね、急に逃げ出すようなことして」
「でも、なんかあったらすぐ言えよ。こんなんでも一応結花の彼氏なんだから」
「うん!ありがと!」
明るい声とは裏腹に結花は真顔だった。別にそれ自体は珍しい事ではない、むしろずっと気持ちを顔に出す方が珍しいだろう。
「そんなこと....できるわけないじゃん」
何故か手に力が入らなくなっていった
ぱたん
手から離れたスマホが床に当たって音を立てた
「結花?!大丈夫か?結花!」
慌てた和希の声がスマホから聞こえてくる
「大丈夫なわけ...ないでしょ.......」
なすがままに椅子に座って机に突っ伏した
この気持ちはどうすれば良いのか分からなくて、もう泣くこともできなかった。
世の中にあるほとんどの痛みや辛いことには名前がついているのにこの気持ちにはなんの名前もついていないなんて世界は理不尽だと頭の中でぼやいていた
「どうしたらいいんだろ.........」
あの日のことを思い出す。初めて和希と話した日、私が初めて死のうとした日。
あの日は辛いことが重なって心身共に限界だった。朝ご飯を食べていると
「もうすぐテストだよな、次点数下がったらどうなるか分かってるよな?」
お父さんの脅しじみた言葉に胸が苦しくなった。
学校に行く途中、偶然小学校の頃私をいじめていた人達と出会した
「あれ?結花じゃーん!w久しぶり!w」
怖くて後退りをすると
「何それ?もしかしてまだ小学生の時のこと引きずってんの?w」
声が出せなくなった、怖くて怖くて逃げ出したくても体が動かなかった
「なんだよ、つまんねーの」
いじめっ子達は結花の肩を押して勢いよく突き飛ばした。そのまま結花は地面に手をつくようにして転んだ。そのままその人達はどっかに行ってしまった。
「どうして..私ばっかり.......もう、全部辞めちゃいたい」
そう思った。
電車に乗った後も学校の最寄駅では降りずにずっと電車に乗っていた"死に場所を探して"今思えばそんな言葉で表現されるんだと思う
その果てに辿り着いたのが"あの場所"だった。
誰も居なくてたまに吹く風が心地良い。そんな所だった。
しばらく川を眺めていたらお腹が空いてきて、こんな時でもお腹は空くんだと思いながらリュックからお弁当を取り出して箸で卵焼きをつまんで口に入れた
(おいしい)
死のうとしてる人でもそんなふうに思うのかとか考えているうちにいつの間にかかなりの時間が経っていた。
そろそろ死に時だと思って橋の手すりに座った
その時だった
歳の近そうな男の子がやって来た
「あっ、どうしたの?君」
気づいたら声をかけていた
「どうしたって、そんな所に座ってたら危ないだろ」
って言われた。
それを言われた時、すごく嬉しかったのを覚えてる。こんな自分でも見捨てずにいてくれる人がいるんだって。それでちょっと揶揄ったりしちゃったっけ
それで、よく見たらその男の子は同じ制服でさらによく見たら同じクラスの久里浜和希だった。
"いつも大人しくて、暇さえあればイヤホンをつけている"そんな印象だったけど。同時に何故か気になっていた
何を気になっていたのかは今も良く分からないけど和希ともう一回生きてみよっかなって思った。
同じクラスなのに名前すら覚えられてなかった時は流石にびっくりしたけど、そんなことどうでも良くなるくらいに彼といると楽しくて、自然と笑える自分がいた。
彼のLINEが知りたくてソフトクリーム屋さん良くある方法でLINEを交換した
"一緒にいる"それだけで良かった。-----------
「ふふっ」
一通り思い出した時、私は笑っていた。
あの日は私の人生で最悪の日になるはずだったけど、和希のおかげで私の人生で最高の日になった。
あれだけ心を閉ざして死のうとしていた私の気持ちをいとも簡単に変えてみせた和希のことが"好き"になった
そんなことを考えていたら急に頬が赤くなっている気がして、ベットに飛び込んだ。枕に顔を沈めてしばらくの間脚をバタバタとして照れた気持ちを必死に隠した。
「和希、大好き」
小さく呟いたと同時に
「結花!頼む!応えてくれ!」
スマホのから和希の声が聞こえた
(えっ!?もしかして今の聞かれた!?)
ずっと通話中だったことを忘れていた自分を頭の中で責め立てた。でもそれ以上に頬が赤くなっていくのを感じた
「か....和希..」
「結花!良かった。何かあったのか?すごく辛そうだったけど」
「いーっぱいあったよ。でもね、和希が助けてくれたから。もう大丈夫」
それだけ言って一方的に電話を切った。これ以上話し続けたら泣いてしまう気がしたから。
「和希、大好きだよ」
もう一度声に出してから、私は部屋を出てお母さんの所に向かった
"今ならちゃんと話せる"
そんな思いと一緒に。
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