#8

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「何があったか教えてくれる?」


抱きしめ合ってから15分ぐらいたった時だった


「やっぱり...嫌だ..」


「そっか..じゃあ言いたくなった時に教えて」


「うん.....」


少し元気のない声で答えた。



「結花、ソフトクリーム食べる?」


そう言ってこの前と同じソフトクリーム屋さんに入った


「どれが良い?」


そう問い掛けると結花はしゃがんでレジ下のショーケースを見つめ始めた


「こちらの新作とかオススメですよ」


不意に店員さんに話しかけられてびっくりした結花は子供みたいに僕の後ろに隠れて僕の服の袖を掴んだ


「えーっと、じゃあその新作を二つお願いします」


「ありがとうございます」


颯爽とソフトクリームを準備する店員さんの姿を結花は子供みたいに目をキラキラさせて見つめていた



「はいこれ」


店を出てソフトクリームを一つ差し出すと結花は嬉しそうに両手で受け取った


「ありがと....」


小さな声でお礼を言うと外のベンチに座った、僕も隣に座ってソフトクリームを食べた。



二人がソフトクリームを食べ終えた頃、空が暗くなり始めた


「食べ終わったし、そろそろ帰るか」


いつもよりゆっくりな足取りで駅に向かった。


乗った電車には時間帯もあってかほとんど人がいなかった


二人はイスの端っこに並んで座った



数分後



「和希.....」


隣から小さな声がして振り向くと結花は眠っていた


「寝言か...」


僕は結花の寝顔を見つめながらそう呟いた。



「結花起きて、もう着くよ」


その声で結花は目を覚ました


「私の寝顔見た?」


結花は恥ずかしそうに言った


「見た」


「えっ!見たの?!やめて!忘れて!」


赤くなった顔を両手で隠しながら言う結花を見て僕は思わず


「可愛い..」


「えっ?!」


「あっ!ごめん!今のは忘れて!」


我に返った僕は必死で自分の発言を無かったことにしようとした


でも、もう手遅れだった


「へ〜、私のことそんなふうに思ったんだ」

「明日みんなに言っちゃお〜」


「やめろ!やめてくれ!お願いだから!何でもするから!」


「じゃあ今日も泊めて」


「え?」


「何でもしてくれるんでしょ」


「でも..今日は親もいるし....」


「じゃあ明日...」


「分かった!分かったから!」


「やった!ありがと!」


ちょうどその時最寄駅に到着するアナウンスが聞こえてきた


駅のホームを出て僕の家まで歩いてる最中ずっと結花は僕の服の袖を掴んでいた。


家の前に着いた時


「いいか結花、親に見つかったら色々とまずい事になるから絶対見つからないようにな」


「うん」


結花は息を呑むように頷くと僕は鍵を取り出して玄関のドアを開けた


「おかえりー」


「ただいま」


お母さんはちょうど夕飯を作っていたようで結花をこっそり自分の部屋に連れて行くのはそこまで難しいことではなかった


「和希、夕飯できたよー」


部屋に入ったと同時にお母さんに呼ばれた


「行ってきなよ」


結花に言われて僕は夕飯を食べにリビングに行った


夕飯を食べてる最中僕はお母さんに悟られるようにと必死に平然を装った


手早く夕飯を食べ終えた僕は急いで自分の部屋に戻った


「私もう眠くなってきた」


「確かにすることもないしな」


「今日はどこで寝たい?」


結花に訊くと


「一緒に寝たい」


「え?」


頭の中が真っ白になるとはこのことかと言わんばかりの状態だった


「さすがにそれは....」


「良いじゃん別に!付き合ってるんだし!」


「べつにいっか...」


「やった!じゃあこっちおいで!」


結花に招かれ電気を消してから同じ布団の中に入った。


「抱きしめて良い?」


僕の耳もとで結花は囁いた


僕は返事の代わりに結花を抱きしめた、結花も僕を抱きしめた


「なんか....心がぐーって締め付けらてるような感じがして、不安とか劣等感とかで押し潰されそう」


結花の顔は暗くてよく見えなかったけど、その声は確実に泣いていた


「そっか....でも安心して、僕が守るから」


僕がしてあげられることはこれくらいしかなかった。



翌朝



「おはよう和希!」


結花は昨夜とかうって変わって元気そうだった


「私今日からちゃんと学校行くから」


いつもこの時間にはすでに両親は仕事に行っているため家にいるのは僕一人だったけど今日は結花がいる、そう思うと嬉しかった。


「じゃあ一緒に行こ」


「うん!」


結花は嬉しそうに返信をした


「じゃあ着替えるね」


「えっ!ちょっと待て!今部屋出るから!」


「別に良いじゃん、付き合ってるんだし」


慌てる僕を見てきょとんとした表情を浮かべる結花。



二人とも準備を済ませて学校へと向かった。


「そう言えばさー、私たちが付き合ってる事は誰にも内緒だからね」


「うん、わかってる」


電車の中でそんな話をしているうちに学校の最寄駅に到着した


「あっ!結花ー!あと和希も!」


後ろから声が聞こえて振り向くと雪奈がいた


「もー昨日も学校来なくて心配したんだから!和希もだよ!」


「ごめんごめん、ちょっと色々あって」


結花は笑って返した


「何かあったら相談してね..悩みとかさ」


雪奈は意味深にそう言うとすぐにさっきまでの笑顔に戻った


「じょあ行こっか、急がないと遅刻しちゃう」


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