#9

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「じゃあここ...和希、答えてくれ」


不意にあてられた事に戸惑っていると


「答えは3です!」


結花が勢い良く手を挙げて答えてくれた。学校では"同じ部活で同じバンド"というだけの関係しかなかった。それは僕の希望で付き合ってることは内緒にしてほしかったからだ。


僕は勉強は他と比べて出来る方だと思っていたけど結花はそれを上回るらしい



「さっきはありがとう、答えてくれて」


「お礼だよ、いろいろ迷惑かけちゃったし」


「あれはあれで結構楽しかったよ」


1時間目と2時間目の休憩時間に話していると


「本当だ!今日はちゃんといる!」


夜羽の声だった


「もー!二人とも心配したんだからね!」


「ごめんね、ちょっと色々あって」


「そっか...」


どこか下を向く夜羽に少し違和感を感じつつもその場では特に何も言わずにやり過ごした



全ての授業を終えて部活の時間が始まった。軽音部では最初に各楽器で集まって基礎練をした後に各々のバンドで集まって練習をする


「久しぶりに全員集まったねー!」


「そうだねー!」


そんな話をした後にそれぞれ練習始める。僕はまだ始めたばかりという事もあってほとんど結花に教えてもらう形だった。



気がつくとあっという間に部活の時間が終わって、それぞれ帰路につきはじめた


「和希、ちょっと良い?」


雪奈に声を掛けられて


「良いけど、なんかあったの?」


「ちょっとこっち来て」


耳打ちでそう言われて僕は言われるがままに雪奈について行った


「結花となんかあったの?」


「別に」


いっぱいあった。でも僕は何も言わなかった、二人だけの秘密だから


「結花はさ...誰かに相談したりするのが苦手で、いつも独りで抱え込んじゃうの」


「そっちこそ何かあったの?」


「私と結花が幼稚園からの幼馴染だってことは知ってるよね、幼稚園の時の結花は周りからよくからかわれて誰もいない場所で泣いてたの」


今の結花からは想像もできないことだった


「それでね...結花はどんどん喋らなくなって、小学校に入学してからもずっと無口で、いじめられるようになって.....私..気づいてあげられなかった、親友だったのに..大好きだったのに....」


雪奈は両手で顔を隠して泣いていた


「結花は私の前ではずっと笑ってた...辛かったはずなのに...」


結花にそんな過去があったことは和希も知らなかった


「急にこんなこと言ってごめんね、ただ二人とも何にも言わずに学校を休んだから心配で....」


必死に涙を拭いながら言った。いくら拭っても止まりそうにない涙を隠すように続ける


「何にもなかったなら良かった!じゃあ帰ろっか、みんなのこと待たせてるし」


二人は重いリュックを背負ってみんなの所に向かった


「あ!やっと来た、二人とも何してたの?」


結花が手を振りながら笑っていた、隣には優斗と夜羽も居た


「お待たせしました〜、和希の入部届けを出しに行ってた」


5人で帰路につくと雪奈がみんなに提案した


「お腹すいたから何か食べに行こー!」


「名案だよそれ!」


結花は大賛成だった


「僕もお腹すいてるし、行こ」


優斗も賛成、僕も賛成だった


「ごめん、私この後バイトだから行けないや、4人で行ってきて」


「そっかー、じゃあ夜羽がいなくて残念だけど4人で行こっか」


雪奈と結花が先陣を切って話を進める、そのまま勢いで駅の近くにあるファーストフード店に食べに行くことに決まった。



「おいしい!」


ごはんを食べて幸せそうな顔をする結花


「よく食べるね〜」


「雪奈お母さんみたい」


優斗のツッコミでみんなが笑った。


お会計を済ませてみんながそれぞれの帰路につく


「私バスだから、また明日」


雪奈は小走りにバス停に向かった。


「僕はこっちだから」


3人で歩いている途中に優斗はそう言って僕と結花と別れた


「二人きりになっちゃったね」


しばらくした後に結花が呟いた


「何かあったらすぐに言えよ」


「え?」


唐突な僕の言葉に結花は驚きと疑問が入り交じった表情を浮かべた


「雪奈から聞いたよ、結花の昔のこと」


「やめて...」


結花は下を向いて小さな声で言う


「そんな話しないで、思い出しちゃうから」


4人でいた時とは全くと言っていいほどさっきの結花と今の結花は違った


「ごめん」


それだけ言うと、結花は独りで走って行ってしまった


僕は何をすれば良いのかわからずその場に立ち尽くしていた。


どれくらいの時間そうしていたのか僕にはよく分からなかった、ふと気がつくと目から大粒の涙が一滴滴っていた。


「大丈夫か?」


背後から声が聞こえて振り返るとそこには優斗がいた。見る限り飼い犬の散歩をしているようだ


「ちょっと....」


言葉が出なかった


「まあ、これでも飲めよ」


冷たく冷えたサイダーを急に頬に当てられてびっりしながらもそれを受け取って勢いよく飲み干した


「お前はお前でいろいろあるとは思うけど、あんまり思い詰めんなよ」


優しさで溢れているその言葉を聴いて僕は思いっきり泣いた


「落ち着くまで隣に居てやっから好きなだけ泣きな」


優斗は僕の背中をさすってくれた、優斗が散歩をしていた飼い犬は僕の側に座って顔を擦り付けてきた


「ありがとう」


僕は精一杯声を振り絞ってそう言った


その後もしばらくの間僕の涙は止まらなかった。


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