#4

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30分ぐらい、歩いた時だった


「ねえ和希、手繋ご」


そう言って結花は右手を差し出した、僕は気がついた時にはもう既に左手を伸ばしていた。


「なんか私達カップルみたいだね」


結花は微笑んだ


僕は少し赤くなっているであろう頬を隠すようにそっぽを向いた


「私のこと好き?」


「えっ?」


いきなりそんな質問をされた僕は混乱して何も考えられなかった。でも、働かない頭で無理矢理考えてでた答えはシンプルだった


「好きだよ」


その言葉を言った途端、まるで引っ掛かっていた何かが全て外れたかのようにいろんな言葉が出てきた


「好きだ、だから死のうとなんてしないでくれ」


「んー、どうしよっかな?」


真剣な僕とは違って結花は至っていつも通りだった。


「じゃあさ、取り敢えず海を見に行こっか」


あからさまに誤魔化すように話を変えた結花だったが、僕は何も言わずに海へ向かって歩いた。



「綺麗だね」


「そうだな」


浜辺に二人で立って海を見つめていた、月明かりが水面に反射的にしてきらきらと輝いている


「ちょっとここで待ってて」


結花は繋いでいた手を離すと海に小走りで入って行った


「何やってんだよ、着替えも無いのに濡れたら帰り大変だろ」


「別に良いじゃん、どうせもう夜遅いんだし多少濡れたまま電車に乗っても何とかなるよ」

「ほらほら、そんなことより和希もこっちおいでよ!気持ちいよ!」


「べつにいっか」


僕はそう呟いた後、結花に続いて海に入った。


お互い高校生とは思えないぐらい、子どもみたいにはしゃいで、海水をかけあったりして遊んだ。


一頻り遊んだ後に浜辺に上がって思わず二人で見つめ合って笑った、こんなに笑ったのはいつぶりだろうか?そんなふうに思った。


服が乾くまで浜辺のベンチに座って時間を潰した


良い感じに服が乾いたところで帰路についた


江ノ島駅から電車に乗って最寄り駅に着いた時スマホには


"10:24"


と表示されていた


「急がないと!補導されちゃう!」


結花は慌てた様子で言った


「家まで送るよ」


「さんざん付き合ってもらったのにこれ以上は悪いよ、それに時間もあるし」


「こんな時間に制服着た女の子が一人で歩くなんて危ないだろ、それに時間はまだなんとかなるし」


「和希って意外と紳士っぽい所あるんだね」


「じゃあ行くぞ」


僕は少し速足で歩き始めた。



「今日は本当にありがとね」


「また何かあったら言うんだぞ」


「うん!」


結花は嬉しそうに笑った


「あと今日の事も..」


「内緒にすれば良いんだろ」


結花の言葉を遮るように言った


「そう、ありがとう、じゃあバイバイ」


「また明日」



〜結花の家〜


パチン!


その音が響いたのは結花が玄関のドアを閉めた直後の事だった


「こんな時間まで何してたの!勉強もしないで!」


お母さんの怒号が耳を劈いた


「ろくな成績も取れてないくせに今度は夜遊びか!」


その声と共に今度はお父さんに殴られた


結花は痛みが走る頬に触れる力も出なかった、そのまま壁に寄り掛かるようにしてその場に座り込んだ。


結花は身も心も疲れ切っていた、何も言わずただ床を見つめることしかできなかった。


「何か言ったらどうなんだ!」


お父さんの怒号が止むことはなく、今にも殴り掛かってきそうだった。


(もう無理だ.....)


結花は何も言わず立ち上がり自室に戻った、後ろからお母さんとお父さんの声が聞こえたがそんなのは無視した。


バタンと扉閉めてそのままドアにもたれ掛かった


「もう無理だよ.....」


(あの時無理でも飛び降りてればこんな思いはしなくて済んだのに)


そんな考えが頭をよぎった。


日記アプリを開く


「何で私はこんな思いをしなきゃいけないの?昔からずっと、もう耐えられないよ」


日記アプリを閉じた結花は顔をうずくめた


「もう嫌だ!」


そう言って結花は手に持っていたスマホを壁に投げつけた


汚れた制服姿のまま結花はベットに倒れ込んで眠りに落ちた。



深夜2時過ぎ



「お腹すいた」


何も食べずに眠ってしまったせいでものすごい空腹で目が覚めてしまった


「何か食べたいなー」


一度眠ったおかげで少し心も落ち着いたようで、さっきよりも冷静に物を考える事ができている


「取り敢えず何か食べよ」 


そう呟いて部屋を出てキッチンに向かった


(何かないかなー)


そう思いながら冷蔵庫を漁る


結局、奥の方にあったブロッコリーにドレッシングをかけて食べた


その後はお風呂に入って、髪を乾かし歯磨きをして再びベットに戻った


疲れてたのかすぐに深い眠りについた。



翌朝



(ベットから出たくない)


そう思うのは良くある事だ、でも今日は少し違った


(怖い)


そう感じた。


何処から来るのかわからない恐怖が次第に増していくのを感じて震えが止まらない


「まだ寝てるの?早く起きなさい」


お母さんの声が聞こえる


「行かない」


声を振り絞って返答した


「何言ってるの!さっさと起きて学校に行きなさい!」


その声に思わず布団で耳を塞いだ


その後は結局ベットから出ることができず、学校は無理矢理休んだ。


怖くて部屋から一歩も出ていない、ずっと布団にくるまって蹲っているうちに気づけば普段ならもう部活をしている時間だ。その時だった


ピンポーン


インターホンの音が聞こえた、この時間家には私しか居ないから私がでるしかなかった


そっとドアに近づいて覗き穴から外を確認した、そこにはバンドメンバーがいた。


ドアを開けると


「結花!良かった、急に学校来なかったから心配したよ〜」


雪奈だった


「ありがとう雪奈」


結花は嬉しくて自然と頬が綻んだ


「私だけじゃないよ、バンドメンバー全員心配で、だから皆んなで会いに来ちゃった!」


「ありがとう」


「おじゃましまーす!」


雪奈を筆頭に優斗と夜羽と和希も入ってきた


幼馴染の雪奈は慣れた足取りで結花の部屋に入って行く


「みんなありがとね」


結花の部屋で皆んなで円になって座った


「今日はどうしたの?」


雪奈にそう問いかけられた私は動揺した


「えーっと、何で言うか..その...いろいろあってね」


何とかその場を乗り切った


その後は他愛もない会話をしたりババ抜きをしたりして楽しかった



「今日はありがとね」


結花はバンドメンバーを玄関で見送ってドアを閉めた


「ありがとう..みんな....」


そう呟いて自分の部屋に戻る足元は何処か覚束なかった。




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