#3

#3


〜放課後〜


「こっち!こっち!」


小走りで部室に向かう結花の後に続いた。


「ここだよ!」


勢い良く部室のドアを開けて誇らしげに言った


「みんな見て!新しい部員!!」


「ちょっ!僕はまだ入るって決めたわけじゃ」


慌てて訂正しようとするがもう時すでに遅し


「え?違うの?」


目をきょとんとさせてこちらを見つめてくる結花に耐えられず


「べつにいっか」


とだけ呟いて


「初めまして、1年3組の久里浜和希です、結花の誘いで今日から軽音部に入ることにしました。よろしくお願いします」


ありきたりな自己紹介をした。


部員みんなが僕の方を見て拍手で歓迎してくれた


「さっそくだけど..和希、はいこれ」


と言って渡されたのは黒いギターケース、重さからして中にはギターが入っているのがわかった


「弾いてみて」


「え!?」


その言葉に思わず変な声を出して驚いてしまった


「いや僕弾けないんだけど」


「そうだった、ごめんごめん」

「じゃあ取り敢えずチューニングからやろっか」


ギターケースを開くと綺麗な青いギターが出てきた


結花はリュックからチューナーを取り出してギターの先端に取り付けた


「最初は6弦を押さえて、こうやって1弦ずつ音を合わせていって..最後はジャーン!!ってやるの!!」


真面目に教えようとしてるのか、それともふざけているのか僕にはよくわからなかった


「えーっと次はー、Cメジャーかな」


結花は器用に弦を押さえてCメジャースケールを一通り弾いてみせた後、解説を始めた


「最初は6弦の8フレットを押さえて、次は6弦の10フレットを押さえて、次は....」


淡々と続く解説を見ながら自分にはできそうのない動きを必死に頭に叩き込んだ


「じゃあやってみて!」


渡されたギターをそれっぽく構えて、Cメジャースケールを弾く


結花が弾いた時とは雲泥の差があった、ちゃんと弦を押さえているつもりでも綺麗な音になっていなかったり押さえいる弦と違う弦を弾いていたりと散々だった。


「初めてにしては良い方ね、和希センスあるよ」


と、結花に褒められて少し照れくさく思いながらも顔に出さないように必死でギターを弾いた。


「練習熱心だね〜」


見知らぬ声に思わず手を止めた


「あっごめんね、私は佐藤雪奈(さとうゆきな)同じ一年生だよ!よろしくね!!」


「よろしく」


あいさつを返した


「ちょっとー雪奈、和希の邪魔しないのー」


「邪魔なんてしてないよ」


仲良く喋る結花と雪奈


「私達は幼稚園からずっと一緒で幼馴染なんだ」


「そうなんだ」


幼馴染どころか親友と呼べるような人もできたことがない僕にとってはそれが少し羨ましかった。


「そういえば、まだバンドメンバーの紹介してなかったね」

「メンバーは全部で4人いて、ベースが..」


「はーい!」


結花が言いかけたところで雪奈が大きな声で返事をしながら手を上げた


「雪奈はいつも元気だねー、それであそこでスマホを弄ってるのがキーボードの城沢優斗(しろさわゆうと)音ゲーがすごく上手なんだよ!それであっちで熱心にドラムを叩いてるのがドラム担当の石塚夜羽(いしづかよわ)笑顔がとっても可愛いんだよ!」


結花はバンドメンバーを一人一人紹介してくれた


「これからよろしくね!あっ、後私のことは夜羽って呼んでね」


「城沢優斗と言います、宜しくお願いします」


「じゃあ!仲も深まった所でセッション始めますか!」


パチンと手を叩いて結花は言った


まだ、コードもまともに押さえられない僕はセッションを観ているだけだった。


〜部活終わり〜


「和希一緒に帰ろ」


結花に誘われて一緒に帰路についた


「今日はありがとね、急に誘ったのに来てくれて」


「結構楽しかった」


「なら良かった」


「結花って僕と話す時性格変わるよな」


ふと思って口にした


「そうかな?特に意識はしてないけど..心のどこかで特別に思ってるのかもしれないね」


思ってもいなかった返答に動揺した


「なんかさー、嫌になっちゃう」


足元に転がってた石を軽く蹴って結花は言った


「急にどうした?」


結花はつい昨日自殺しようとしたぐらいだ、何か思い詰めている事があるんだろうと思っていた、でもそれを問うことはかえって逆効果になってしまうのではないかと思いあえて何も訊かなかった。


「心配じゃないの?私のこと?昨日死のうとしたんだよ?私」


僕の少し後ろを歩いていた結花の足音が止まった


「心配だよ」


僕は結花の方に振り向いて言った


「じゃあもっと、話聞いてよ」


結花は僕の腕にしがみつくように抱きついてきた


その瞳は今にも溢れ出しそうなほど潤んでいて、少しばかり溢れ始めてきた


「ごめん和希、なんでもないから忘れて」


我に帰ったように手を離して手で必死に涙を拭っている


「何かあったら相談しろよ」


僕に言える精一杯の言葉だった


「ねえ和希、このまま一緒にどっか行かない?」


時刻は6時27分、今から出かけたら帰るのは11時近くになってしまう事は明白だった


「いいよ、どこ行く?」


今、このまま帰ってしまったら結花がどういう行動を取るかわかったもんじゃない。


「えっとねー、そうだ!取り敢えずついて来て!」


小走りに駆け出した結花を追いかけた


言われるがままについて行き電車に乗った。


約1時間半、電車に揺られてついたのは


"江ノ島駅"


ホームに降りて空を見上げると、既にもうとっくに暗くなっている。


そんな中、僕と結花は特にあてもなく歩いた。



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