第22話 盛大な勘違い
緑川が家に来た事で流歌が怒って帰るかなとか思ったけど、流歌は流歌で普通に洗濯物たたんでるし、緑川は緑川でキッチンでお菓子作り始めてるしカオスな空間。ってかそもそも今日俺洗濯機回してないしなんなら学校だったし。って事は流歌さん早朝に俺の家に来てます?
「松橋く〜ん、ボウルってどこ〜?」
「俺が知るか」
「ボウルは食器棚の引き出しの一番下」
「あ、あったー! ありがとう青山さん!」
なんか普通に馴染んでない? 流歌も特に不機嫌にはなってない感じだし。いや、表情は笑ってないから内心どう思ってるかは分からないけど……
「なぁ流歌、また俺の親に頼まれたのか?」
「そんな感じ」
「迷惑だったら断ってもいいんだぞ?」
流歌だって年頃の女子高生だしやりたい事があるはずだ。友達と電話したりSNSしたり好きなテレビ番組見たり。
それをただの幼馴染の親のお願いだからって律儀に聞く必要なんて無いからな。
「好きでやってるから、別に」
「俺の事が?」
「勘違いしないで。普通に家事の事だから」
「あぐ……」
流れで変な事口走ってしまった。緑川より俺の方がよっぽど流歌の機嫌損ねてるよね。
「なぁ、流歌……お前の機嫌を損ねた理由。いくら考えても分からないんだ。だから教えてくれないか……?」
いくら考えても分からないから、だったらもう聞くしかない。緑川的な思考だけど、分からないままモヤモヤして時間が過ぎるよりはマジだ。
「別に、あんたは悪くないんじゃない」
「え?」
流歌から発せられたのは意外な言葉だった。無視されるか、自分で考えろとか罵倒されると思っていたけど、例の件に関して俺は悪くないらしい。
「じゃあ、なんで全然絡んでくれなかったんだ?」
「怒ってたから。最初はね。でも分かったんだ、考えが甘かったのは自分なんだって」
「はい?」
「思い上がってただけ。期待し過ぎてただけだから。もうシカトとかしないし、普通に接するから気にしなくていいよ」
「そ、そっか」
なんかよく分からないけど、俺は流歌から許されたっぽい? じゃあこれから流歌と話したい放題で、デートとかにも積極的に誘っていいって事だよね? 何よりもうシカトとかしないからって言われたのが心の底から嬉しかった。
「流歌。いろいろいあったけど、これからもよろしくな!」
返事は返ってこなかった。でも、仲直りの時ってなんか照れくさくなる時もあるもんね。そーゆー所は幼馴染としてもポイント高いんだぞ流歌さん!
その後、緑川は手際良くクッキーを作って、流歌は部屋の掃除をしていて、俺は一人ウキウキルンルンでソファーに座っていた。
「私、もう帰るから」
「おう! またな、流歌!」
そのまま流歌は俺の家を出ていく。
そうなるとこの家には俺と緑川の二人っきりなわけで……って別に良い雰囲気とかではなく、別に何も期待なんてしてないし求めてもない。
真剣にクッキーを作る緑川の事を、人は見かけによらないと初めて感じた瞬間かも知れない。
これをギャップ萌えとでも言うのだろうか? いや、萌えてはいないな。ずっと見ているのも気が散ると思い、俺はソファーに座りながらスマホをいじる事にした。
「あれ? 青山さんは?」
「もう帰ったよ」
「そうなんだ。ねぇ、何見てるの!?」
ソファーの後ろから緑川が身を乗り出して俺に聞いてくる。さりげなく肩を掴むんじゃない……思わずドキッとしただろうが……
「別に大したもんじゃねーよ」
「えっちな動画とか見てたんじゃないの〜! えいっ! えいっ!」
そう言いながら俺の頬を数回突いてくる上原。無邪気に笑いながらしてくるが、中々に破壊力はあるな。
「お前が家に居るのにそんなの見る訳ねーだろ。もうクッキーの方はいいのか?」
俺は照れてるのを悟られぬように、緑川にクッキーの話題を振った。
「うん! あとは焼けるのを待つだけだからそれまて暇なんだよ〜!」
「そうなのか、適当にくつろいどけ」
「分かった! うぁ〜疲れたぁ〜!」
俺はそのままスマホに視線を落とす。それ以降緑川も俺には何もしてこなかった。しばらく経ち、キッチンでオーブンが音を鳴らしていた。恐らくタイマーセットの時間がきたのだろう。
「おい緑川、タイマー終わった……」
俺は緑川に声をかけたが、気持ち良さそうに眠っている緑川を見て、それ以上言葉をかけるのをやめた。
「ったく。しゃーねーな」
俺はそのままキッチンまで行き、ミトンを付けオーブンからクッキーを取り出す事にした。
ハート型やら星型やらのクッキーがずらりと並べられていた。
綺麗な小麦色の焼き加減に香ばしい匂いが俺の食欲を誘った。俺は一番小さめの星型のクッキーを一つ食べて見る事にした。
「あっつ……」
そりゃ焼きたてだから熱いだろうな。
少し息を吹きかけて冷まし再度クッキーを口に運んだ。食べてみた感想は、シンプルに美味しかった。
特別に美味しい訳ではないが、普通に美味しかった。もう一個に手を伸ばそうとしたが、次に手を出せば止められなくなると思い手をつけるのをやめた。
そもそもこれは俺の為に作った訳じゃない。緑川が例の先輩の為に作ったものだ。味見用なら一つで充分だろう。俺はそのまま緑川の眠っているソファーへと戻った。
「ったく、無防備過ぎやしねーか? まぁ……寝顔は悪くねぇな」
どんな幸せな夢でも見ているのだろうか? 微笑みながら眠っている緑川の頭を優しく撫でた。
「クッキー美味しかったぞ」
緑川は未だ眠ってたままだったが、俺の言葉を聞いた後、微かに微笑んだ様な気がした。
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