第21話 クイーン・オブ・バカ
「さてと、材料はこんなもんでいいかな〜」
「結構買うんだな。ホットケーキミックスでいいんじゃないねーか?」
「ノンノンノンノン、ホットケーキミックスでクッキーを作るのはご法度だよ!」
得意げになりながら俺に言ってくる緑川だったが、コイツの事今めちゃくちゃ殴りたい……別にいいじゃねーかそれくらい。現にホットケーキミックスを使う作り方載ってるし。
そんなこんなで、俺と緑川は学校帰りにスーパに寄っていた。理由は勿論、緑川が先輩の為に手作りクッキーを作ろう大作戦を思いついたからその材料の買い出しだ。
「なんか言い方がムカつくから帰っていいか?」
「嘘だよごめんなさい謝るから……」
俺が帰ろうとすると直ぐ謝るよなコイツ、変に煽られるよりはいいけどな。それよりも俺は疑問に思っている事を緑川に伝えた。
「ってかそもそも俺いる意味あんのか? お菓子作りは自信あるんだろ?」
「それでも一応感想は欲しいもん。松橋くんは相変わらず分かってないな〜」
「そんな緑川も相変わらずムカつく野郎だな……そんなの幼馴染とかに頼めばいいんじゃん。この前の黒髪ボブとか」
すると緑川は急に寂しげな表情になった。もしや、幼馴染達との関係が上手くいってなかったりするのだろうか?
「……零にはバレたくないの」
俯きながら小さくそう呟く緑川。一体何があったと言うのだろうか? こういった時にどんな言葉をかければ正解なのかは分からない。
「何かあったのか? 俺でよければ話聞くぞ」
俺は自分なりの精一杯の優しい声で緑川にそう言った。何だかんだ緑川とはそれなりに絡んで入るから、普段は能天気でポンコツな緑川でも落ち込んでいるなら多少なりは気になる。本当に多少はな。
直接的な解決には至らないにしても、吐き出すことで自分自身の気持ちが軽くなることもあるだろう。そう言った意味を含めて俺は緑川に声をかけた。
「おかしい。松橋くんが私に優しいなんて……目的は何……? お金? 身体? それとも私?」
「少しは心配した俺の気持ちを返してくれ……」
心配してやったと言えば横暴になるが、俺の予想とは反する返答に俺はやっぱりポンコツはポンコツなんだなと再確認した。それに何だよそれ……イチャコラ王道の三択のはずなのにこれは不穏な空気しか流れてねーよ。
「……怪しいな」
「お前張り倒すぞ……?」
「お、押し倒す!? やっぱり私に絡んできたのは身体が目的で……」
「お前一回耳鼻科行ってこい」
「私はこう見えても耳はいい方なんだけどっ!」
「なら問題は頭だな。脳外科行ってこい」
「むぅ! 松橋くんのバカ! アホ! 変態! 男!」
「男は別に悪口じゃねーだろ……」
そんなこんなで買うものは決まったらしく、俺と緑川はレジへ向かう事にした。夕方って事もあり、レジは少し混んでいたので上の番が来るまで俺は隣でスマホをいじっていた。
「……え? うそ……」
すると、隣にいた緑川が何やら慌てていた。
「どうかしたか?」
「いや、なんでもない……」
何でもないなら別に気にすることもないなと思い俺はまた再度スマホに視線を戻した。
「ま、松橋くんって……結構男前な所あるよね!」
「……は?」
いきなり緑川がそんな事を言ってきて、つい先程俺に罵声を浴びせてきた奴とは思えない程の手の平返しだった。
「ほら! なんかこう……カッコいい? みたいな感じで〜、そこはかとなくイケメン……? 的な感じ?」
「なんで毎回毎回疑問形なんだよ……なんか隠してるだろ、吐け」
緑川が急にこんな事を言ってくるのはあきらかにおかしい、何か隠しているだろうと思い緑川を問い詰める。
「……さ、サイフを……忘れました……」
「…………本当お前ってバカだな」
今回の材料費は緑川の代わりに俺が払いました。
「は? なんで俺の家なんだよ?」
「私の家だとお母さんがめんどくさいんだもん……絶対松橋くんとの関係根掘り葉掘り聞いてくるしお菓子作り所じゃなくなるもん」
「いや、俺の親だってそうなるからな? 緑川だって普通に黙ってりゃ可愛い方だと思うし」
「黙ってりゃ可愛いって酷くない!?」
実際問題親は海外旅行中だから問題無いっちゃ問題無いんだけどね……頬を膨らませながら抗議してくる緑川を黙らせるべく、俺は魔法の言葉を呟く事にした。
「2000円」
「……うぅぅ」
俺は今回の作戦でかかる費用を緑川の代わりに立て替えたのだ。何故ならこのバカが財布を家に忘れるという失態を犯したからだ。
本当に忘れたのかは定かではないが、コイツはそんなあざとく器用な事は出来ないだろうから本当なんだろうな。
「本当に俺の家でやるのか……?」
「うん! お邪魔しまーっす!」
「……お前な、一応は自分がか弱い女の子だって自覚しろよな」
「え? なんで?」
「だって男の家に上がるって事だぞ。変な事考えてる奴だったら以上終了になりかねないぞ」
俺は緑川に注意したつもりだったが、こいつは俺の事を目を細めながら見てきやがった……
「松橋くんはそんなことするような人じゃないでしょ?」
「俺はそうだが、むやみやたらに野郎の家に行くとか言うなって話しだ」
「大丈夫だよ! 私こう見えてもかなりガードは固いから! それに私だってちゃんと人は選ぶもん!」
果たして本当に大丈夫なのだろうか? だがしかし、緑川も緑川でちゃんと人は選ぶと言っているって事は、少しは他の人より信用はされてるって解釈してもいいのだろうか? めちゃくちゃに嬉しいって訳でもないが、信用されてるに越した事はないし、素直に嬉しい気持ちはあった。
「それに松橋くんはヘタレそうだし!」
前言撤回だ。信用とか信頼とかそんな事は一切なかった。よし、このまま一人で家に帰ろう。うん、何事も無かった、誰も何も見ていなかった。
「悪い、どうしても外せない野暮用思い出したから帰るわ」
「ごめんなさい調子に乗りましたすません……」
そういって涙目になりながら俺に抱きついてくる緑川。何がガード固いだよ、ことある毎に男に抱きついてんじゃねーよこのビッチが……
「わ、分かったから離れろっての……」
俺は緑川を無理やり引き剥がし、その足で俺の家へと向かう。
▼
「ここが松橋くんの家なんだ。結構大きいね」
「そうか? 普通の大きさだろ」
ピンポーン♫
すると、俺の隣で緑川がインターホンを押した。
「何してんのお前?」
「家にきた時はインターホン鳴らすでしょ?」
「家の人を呼ぶ為にな。ここの住人横に居るんだけど」
「あ。そっか!? 早くいってよ〜。松橋くんのいじわる〜」
毎度毎度そうだが、本当にこいつはポンコツだ。俺は盛大なため息をつきながら鞄から家の鍵を取り出す。
「はい」
「え?」
「え?」
両親は海外旅行に出かけてるから家には誰も居ないはずなのに、俺の家のドアが開いて人が出てきた。
制服の上にエプロンを着ている青山さん家の流歌ちゃんの姿がそこにはあった。
「松橋くん、普通に女の子自分の家に連れ込んでんじゃん!」
「いや、これは違くてだな……」
「何やってんの、あんたら」
あーでもないこーでもないと緑川と言い合っていると、流歌の一言で俺と緑川は黙り込む。
「とりあえず今日のお菓子作りは中止だな」
「いや、やるよ。ってかこれチャンスじゃん」
「は? なんで?」
「だって理由は知らないけど青山さんが松橋くんの家に居るんでしょ? なら理由聞くチャンスじゃん」
「俺が聞ける訳ないだろ」
「いや、私が聞くんだよ!」
「もっと危ないわ!」
緑川にお願いしたら何しでかすか分かったもんじゃねーしな。ってか流歌さんまた俺の親にでも頼まれたんですかね……? それなら事前に連絡欲しいんですよね。まぁ、今の関係性じゃしてくれる訳無いけど。
「とりあえず、近所迷惑だから2人とも入りなよ」
「はい、お邪魔しまーっす!」
「おい、家主俺なんだけど?」
流歌の提案に緑川が乗って、家主の俺はほったらかし。渋々一番最後に家の中へと入っていく。
「ねぇねぇ青山さん!」
「なに?」
「なんで松橋くんと仲悪くなっちゃったの?」
いきなり直球ど真ん中ストレート。何がチャンスだ、普通にこれピンチになってるから。めちゃくちゃ流歌の機嫌損ねてるから……
「後ろの人に聞けば」
「だって。松橋くん心当たりは?」
「いや、あのな……」
この雰囲気を察せられないのか緑川は? バカなのか? いや、バカなんだよな。ここ俺の家だけど普通にもう帰りたいんですけど……
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