第14話 バカはどう頑張ってもバカ




 時刻は十時ピッタリ。待ち合わせ時間丁度になったが、言い出しっぺの緑川がまだ来てないが、俺はしっかり十五分前行動として現地に着いていた。

 なんかもう帰ろうかな? 待ち合わせ時間になっても来なかったから帰ったってあとで連絡しておけばいっか。俺は腰掛けていたベンチから重い腰を上げた途端に俺の視界は真っ暗闇に包まれた。


「だ〜れだっ!?」

「……誰でもいいけど俺もう帰るからな」

「ちょっと待って早いよ!? まだ待ち合わせ場所で会っただけだよ!?」

「遅れてきといて謝罪もないってどーゆー事だ?」

「うぅぅ……それはすみません……」


 今回は素直に謝ってきたので良しとするが、もし変に突っかかってきたら間違いなく帰るところだったけどな。


「とりあえず行くぞ。貴重な休み使って来てるんだ。時間は有限だ」

「待って、さっきのどうだった!?」

「あ? さっきのってなんだよ?」

「目隠しのやつ! どう!? ドキッとした!?」

「いや、イラッとした」

「なんでよぉ……これをすれば男の子はイチコロって雑誌に書いてあったのに……」

「そんなんでコロされてたまるかよ。それにその偏差値低そうな雑誌は読むのやめろ。そんなの読んだって役に立たないからな」

「松橋くんってもしかしてアブノーマル系男子なの?」

「俺は至って普通だ。むしろ緑川がポンコツ系女子なだけだからな」


 ここ最近では俺と緑川は会話すればする程こういった形で言い合いをしている。基本的に緑川がバカな発言してくるのが原因だがな。

 結局緑川に被写体の依頼を出す見返りとして今日のお出かけを求められた。拒否したい所だったけど黄坂にも一度くらいはと宥められ、廃部阻止の為に渋々引き受ける事にした。ってかやり口狡いよなコイツ。本当に天使じゃなくて悪魔だよな。

 そんなこんなで電車に揺られること15分、そして駅から歩くこと10分。俺と緑川は大型のショッピングモールへとやってきていた。


「松橋くんはこっちショッピングモールは来たことある?」

「いや、初めてだな」

「そうなんだ、私が初めての相手で良かった?」

「聞き方がなんかムカつくな」

「へ? 何のこと?」


 うむ、これは無自覚パターンだな。さらっと何言ってんの? って思ってしまった。いや、そう解釈した俺の心が折れ汚れているって事だろうからとりあえず冷静になろう。俺は仏だ仏。

 前に二人で行った大型のショッピモールとは違う場所にやってきた。前回は何も知らないで出先にバイト中の流歌と遭遇して気まずい雰囲気になったから、そこは緑川に頼んで変更してもらった。


「そういや、オシャレな人が好きって言ってたらしいが、具体的にどんな事かは聞いたのか?」

「え? そんなこと聞いてないけど?」


 はい、既に詰んでましたねお疲れ様でした。本当にいい加減過ぎて俺は緑川に対して溜息しか出てこなかった。


「いや、ある程度好み知らないとオシャレのしようがないだろ……」


 俺はおもわず頭を抱えてしまった。どうしてこんなにも緑川はポンコツなのだろうか……


「ん〜、何とかなるよっ!」


 俺の苦悩とは真逆にスーパーポジティブシンキングな緑川。なんかもうバカバカしくなり俺はもう緑川に任せる事にした。


「松橋くんはどんな女の子の服装が好みなの?」


 暫く無言で歩いていたが、不意に緑川が俺にそう質問してきた。俺の好みの服装か? 正直これといって特にはなくて、スカートでもズボンでも構わないしな。あ、サルエルパンツとかはすこしダサいと思ってしまうかな。


「特に好みはないな。好きになった人の服装が好きになるだろうし」

「それ、言ってて恥ずかしくない?」

「うっせ。前にも言ったけどさ、そもそも俺は恋愛経験がないんだぞ? 参考にもならないし当てにもならないんだよ」

「大丈夫だよ! 松橋くんは自分にもっと自信持って!」


 別に励ましてもらいたいとかそんなつもりで言った訳じゃないのに何故か変に同情されてしまった。だが、俺の悪夢はまだ始まりに過ぎなかった。先ほどからいろいろと緑川一緒に店を周っていた。俺は確か、緑川のオシャレ探しの旅に来たはずだったが……


「ねぇねぇ松橋くん! このチョコレート美味しそうじゃない!?」

「あ? あぁ、確かに美味しそうだな」

「食べてみたいな〜。すごく美味しそうだな〜」

「…………」

「買ってくれないの?」

「いや、彼女でもあるまいし買わないから」

「女心が分かってないな〜松橋くんは」

「そのセリフを言えば何でも正当化されると思うなよ」


 先程からこんな感じのやり取りをずっとしている。緑川が立ち止まるお店は例外なくお菓子系のお店で、毎回美味しそうと呟き、俺に集ろうとする。だが俺はそんな緑川を軽く流してその場をやり過ごしていた。


「ってかさ、さっきから食べ物ばっかじゃねーか。オシャレに関しての行動一切ないじゃねーか」

「ち、違うよ! これは天使の誘惑なの! 悪魔の罠なの!」

「どっちだよそれ……」

「あ、あのアクセサリーショップ見に行こうよ!」


 そのまま緑川に手を引かれアクセサリーショップへと足を運ぶと店内はピンク色のベースの壁紙に包まれ、いかにも女の子らしい空間が広がっていた。男一人なら絶対に立ち入る事は躊躇してしまうであろう。


「松橋くんみてみて! どう!? 頭良く見える!?」


 スタンドに置いてあるピンク色の縁をしたメガネをかけ、キメポーズをしながら緑川が俺に聞いてくる。


「メガネしてると頭良いって発想が既に頭悪いんだよな」

「むぅ、松橋くんのバカっ!」

「バカはお前だ」


 っとは言ったものの、伊達眼鏡というのはファッションにおいて特別珍しいって訳でもなく、場合によってはインパクトを与えられる代物だ。特にメガネフェチの奴だと効果は抜群だろうが、あいにくと俺はそうじゃないけどな。


「このシュシュとか可愛くない!? カラフルな水玉模様だよっ!」

「いいんじゃないか? 全然緑川っぽくないけどな」

「私っぽくないってどーゆーこと?」


 頭の上にハテナマークが五個くらい出てきてる気がする。特に理由はないが、なんか緑川っぽくなかったのだ。


「特に理由はねーよ」

「なにそれ〜? もっとちゃんと考えてよね〜」


 何故か知らないが腕を広げながら首を左右に振って言ってくる緑川だが、これはそもそもお前の恋愛の為だから自分が一番考えろよと心の中でつっこんでしまった。


「よし、今日の本命はここだよっ!」

「え? はっ?」


 アクセサリーショップを出て暫く歩いた所で緑川が急に足を止めそんな事を言ってきた。だが、俺の目の狂いがなければそのお店は女性用下着の販売店だった。色取り取りの下着が一覧となって並んでいてそして隣にいる緑川は普通に歩いて進んでいく。


「ちょ、ちょっと待て緑川」


 焦りを感じた俺は緑川の右手を掴んでそう言った。きっとそうなんだろうけど、一応は緑川に確認してみた。


「ん? どうしたの?」

「いや、本当にこのお店か? ここ下着屋さんだぞ?」

「うん、知ってるしここで間違ってないよ!」


 緑川は間違えているのではなく、明確な自分の意思と目的を持ってここのお店にきた事を再認識した。いや、普通になんでだ? ただの自分の買い物か? それなら納得はできるが……


「俺は店の前で待ってるから」


 緑川が個人的に買いに来ているだろうから俺が一緒に店に入る理由はない。そもそも入れるかっつーのこんな店に……ただの公開処刑じゃねーか……


「え? なんで来ないの?」

「いや、お前が個人的に行きたいお店だろ」

「違うよ! オシャレの為だよオシャレの為!」


 いや、確かに勝負下着とかって概念はあるけど、それをヤるにしてもそもそもお前と先輩はそこまでの仲になっていないだろうが……それとも色仕掛けで強行突破するって事か? 

 緑川のおっぱい武器ならそこら辺の男子高校生なら割とイチコロネできるだろうが、もっと別のやり方でいいんじゃないか?


「焦る気持ちも分かるが、そういうやり方じゃない方法の方が良くないか? お前軽く見られるぞ?」

「え!? 分かる!? 少し痩せたの〜!」

「…………」


 俺はそのまま無言で緑川の脳天にチョップをした。ここまでポンコツな奴は本当に初めて見たぞ俺……


「痛っ! ちょっと!? 暴力変態!」

「今変態なのはお前だ……ってか誰かの入れ知恵か? じゃないとお前そんな身売りみたいな事しないだろ」


 すると緑川は何やらスマホを操作している。そして直ぐに俺にその画面を見せてきた。


《見えない所での努力を惜しまない事!》


「だからだよ〜っ! 女の子たるもの、見えない所にまで気を使わないと今時モテないんだよ!」

「違うだろーが! 見えない所って身体的な部分の事じゃねーから……」

「えぇ!? じゃあどーゆーことなの?」

「化粧頑張ったり、手作りクッキー作ったりとかそういう事だろうよ。普通に考えて分かるだろうが」

「……なるほど。やはり松橋くんは天才だね!」

「お前がバカなだけだから……」


 相変わらずのポンコツぶりだったので俺は盛大にため息を零した。

 本当にこんな調子で上手くいくのだろうか……? 隣で楽しそうに鼻歌を歌いながら歩いている緑川を横目にそう思う俺であった。

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