第10話 唐突な宣告
「あの、俺になんか用ですか?」
「写真部、入りたいんですけど」
「写真部? 君が?」
「悪いですか?」
「いやいやいや、悪いとかじゃないけどさ」
「名前はなんていうの? もしかして一年生?」
「はい、
唐突にやってきた茶髪ショートヘアーのボーイッシュ。別に部員を募集してないってわけじゃないけど、なんか見た目からして写真とかカメラに興味ある風には見えなかったから。いや、これは偏見か。
「えーっと、部員になってくれるのはありがたいけど、俺に直接言っても入部はできないから入部届け書いてくれるかな? ほら、ここの引き出しに入ってるから」
そう言ってテーブルに入部届とボールペンを置いて彼女に座ってもらうように促した。
はいとだけ答えてすんなりと記入してくれた。
「1年A組の黄坂、さん。一応なんだけど、下の名前も書いてくれるかな?」
「書かなきゃダメですか?」
「俺と入部届出す時名字だけで出したら下も書けって言われたからさ」
「そう、ですか」
渋りながらも再度ボールペンを持って書き始めていた。
「黄坂、ん? しんり? いや、
「黄坂って呼んでください」
部員でもない緑川が確認して、フレンドリー感出したのにめちゃくちゃ壁あんじゃん。
「じゃあこれは俺が先生に出しておくから。部活はいつから来る?」
「今日からでいいですよ。活動はどんな事してるんですか?」
「活動? んー、テキトーに校内とか校外で写真撮って〜って感じかな。元々部員俺1人しかいなかったから俺の自由きままにやってたかな」
「この人は部員じゃないんですか?」
「緑川? そいつ部員じゃないよ」
「私は松橋くんの親友の大天使美羽ちゃんだよっ!」
「よく分かりませんが、危ない人って事だけは分かりました」
「おぉ、黄坂さんは人を見る目があるんだな」
「ちょっと松橋くん! それどーゆー意味!?」
「私の事は黄坂って呼び捨てでいいですよ。先輩ですし」
「そっか、じゃあ黄坂は普段どんな写真撮ってるの?」
「私の事無視しないでよ!」
新しく入部してきた後輩ちゃんとコミュニケーションを取りながらカメラの話をし始めようとした時に、今までの日常に亀裂を走らせる存在がやってきた。
黒髪ロングの髪をゆらゆらと靡かせて、メガネをクイっと上げながらその顧問はやってきた。
「松橋、居るか?」
「先生、いつもノックしてって言ってますよね?」
「悪い悪い。良い知らせと悪い知らせだ。どっちが聞きたい?」
「良い知らせだけでいいですか?」
「良い知らせは、急遽合コンが決まった」
「それ、俺には関係ない話ですよね?」
「悪い知らせは、この部が廃部になる」
「は?」
「え?」
「え?」
俺達はほぼ同じタイミングで、先生の言葉に疑問の言葉を返した。
人数が一人増えて少し部が活発になると思った矢先に唐突の廃部宣告ですか?
急になんでそんなお達し来たんですか? 俺なんか粗相な事しましたか?
「活動実績が不明確だから、いっそのことなら潰してしまおうって事らしい」
「いや、活動実績って、真面目に撮影してるじゃないですか? そもそも、学校のイベント事の写真だって撮ってるの俺ですよ?」
そう、入学式、卒業式、体育祭や文化祭などなど、俺は学校で行われる行事等に積極的に参加して写真を撮って貢献してる。
活動実績が不明確なんて言われる筋合いなんてどこにもないだろ。ってかむしろあるだろ、活動実績。
「あくまで、学校外での実績だ。サッカー部なら大会、吹奏楽部ならコンクール、この写真部なら、写真展の入選と言ったところか?」
「…………」
「ないだろ? 入選の実績」
確かに、先生の言う通り、学校外における活動実績、写真展の入選は今まで一つもしたことなかった。前に千歳先輩に被写体をお願いしてコンクールに臨んだ事があったが、見事に落選してしまった。あの時は悔しくて申し訳なかったと今でも後悔してる。だから、その条件を下されても、何も言えないのは学校側だって分かって言ってる事だった。
「けど、急に廃部なんてどうしてですか??」
部員ですら無いが、あたかも部員かのように当たり前に緑川が先生に向かって質問した。
確かに、学校側に迷惑をかけてるわけでもないし、この写真部を潰したい理由が見当たらなかった。
「費用削減らしい」
「それだけ?」
「あぁ、それだけだ」
シンプルな四文字、費用削減。
別にココじゃなくても、もっと金食い虫はたくさん居るだろうと思ってるけど、そんな理由を話した所で評価なんか変わんないから無駄だと思った。
「廃部を免れる方法はないんすか?」
「そんなの簡単だろう。学校外における活動実績を作ればいい。松橋、できるだろ?」
それはすなわち、写真展に入選しろって事だった。いや、言ってる事は分かるけど、マジでそれはそう簡単にできるモンじゃない。ほんのひと握りしか入選できないのが現実だ。
「先輩、頼みますね」
「おい黄坂、お前だってもうここの部員だからな?」
「って事であとは頼んだぞ、松橋」
嵐のようにやってきて、この部室にとんでもない爆弾を落として、先生は帰っていった。
マジで、シャレになんない事になってしまったのが痛手なんだけど。
流歌との問題、緑川の恋愛相談、千歳先輩の気持ちの整理、そして写真部廃部の件。1番初期の問題がまだ全然片付いていないのに、本当に次から次へと問題が増えていく一方だった。
「どうするんですか? これから。私結局入部できないんですか?」
「どうするも何も、入選するような写真撮るしかないし、黄坂にも協力してもらわないとといけない」
「でも、撮れるんですか? 先輩に」
「お前は、意外と遠慮ないのな……」
時間が過ぎ去るのを大人しく待ちながら過ごしていた部活動は一変して、俺たちは後がない立場に陥ってしまった。
「松橋くん松橋くん、その期限ってどれくらいなんだろうね?」
「知らねーよ。けどあの口ぶりだとそう長くないだろ」
「勝算はあるんですか?」
「急にそんな事言われたってあるわけねーよ」
いきなりの事で頭の整理ができてないにしても、今はすぐにでも行動に起こさないとまずいのは変わりない。
「黄坂、純粋に入部希望くれた所申し訳ないけど、廃部を阻止する為に協力してくれ」
「はい、いいですよ」
あぁ、この子気ぃ強い系で少し怖そうって思ったけどめちゃくちゃ良い子じゃないか……なんか普通に涙出てきそう。
最近の若い子ってそんな感じなの? 俺だったら知らんぷりしちゃうかもしれないし、余計に嬉しさが込み上げてきちゃうしこの後輩めっちゃ好きになれるわ。
「緑川、俺の件は一旦保留で、お前の件もこの問題が解消されるまでは手伝えない。ごめん」
「うん、これは仕方ない問題だからしょうがないよ」
「ありがとう。俺と黄坂は今後の事について話し合いするから、またな緑川」
そう言って俺は可愛い後輩黄坂と一緒に作成会議を始めようとする。だけどまたなと言ったはずの緑川は一向に帰らず、この部室に留まっていた。
「緑川、どうした?」
「どうしたも何もないよ。私だって手伝うよ! だって親友じゃん!」
「いや、そうは言っても緑川写真撮れないだろ。そういうコンクールに応募できるようなヤツでSNSとかに載せるヤツじゃないからな?」
「ノンノンノン。私の存在価値はこの魅力、圧倒的な美少女感だよ!」
「自分で言っちゃう辺りが残念なんだけどな……」
けどまぁ、ここで拒絶したって緑川は聞かないだろう。緑川はそういうやつだ。だったらその気持ちを無下にするんじゃなくて、ありがたく頂戴するとしよう。
「まぁ、足引っ張るなよ」
「私に任せてよ!」
ってことで、俺と可愛い後輩の黄坂と、同級生の緑川の三人での廃部阻止計画がスタートしたのだった。
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