第6話 デートでもお出かけでもどっちにしろ地獄

 

「松橋くん! お待たせ!」

「うん、めっちゃ待った」

「もお、そこは俺も今来たところってゆーのが彼氏じゃないの?」

「いや、だって俺お前の彼氏じゃないし」

「これからデートするんだし、もう私たちカップルじゃない?」

「これは仕方なくだからな。俺がお前に好意を抱いてるとかはまったく無い話だからな?」

「ふふふ、照れてる松橋くんも中々と可愛げがあるじゃん!」

「人の話を聞けよコラ!」


 あの時約束しちまった。もう終わったと思った作戦会議は次の段階に移行していた。

 緑川はデートをしたことがないらしくて、先輩をデートに誘う前に一度実際にデートをしようって話になった。俺は断固拒否したが、デートしないとエッチなことされたって通報するとか脅されたら行く以外の選択肢なんて無いじゃねーか。


「大天使未羽ちゃんとのデートだよ? そんな浮かない顔してたらつまんないじゃん」

「天使じゃなくて悪魔だお前は」

「あ〜、確かにな〜。小悪魔系でもあるかもねっ!」

「本当に人の話聞かねぇヤツだよ……」


 そんなこんなで最寄駅から歩いて十五分くらいの大型ショッピングモールにやってきた。めんどいから俺は近くの公園でいいって言ったのに緑川がここがいいと言い出して聞かなかったからここになった。


「でも来てくれて良かった。本当はね、来てくれないかもって思ったんだ」

「そっか。なら来ない方が良かったわ」

「そしたら通報だよ!」

「拒否権って知ってる?」


 天性のポンコツ少女は考えてることが一味違うぜ……その発言本当に大丈夫か? 緑川、お前一応周りからも美少女ってカテゴリーには入ってるんだからな?

 流石の俺も引いてしまうようなことを緑川はさらっと言いながら俺の数歩先を歩いていく。


「すごい良い天気だね!」

「そうだな」

「こんな日に松橋くんとデートなんてすっごく楽しいし嬉しいな! 太陽さんに感謝だね!」

「太陽さんってなんだよそれ」

「天の恵みには感謝しないと!」

「緑川、お前って本当変わってんな」


 メルヘンチックな変人と一緒に歩くこと二十分、ちょいちょい景色見てはしゃいでいたから少しばかり遅れていた。それでも到着したショッピングモールはやはりとても大きく、子供の頃に来た以来だったから少しだけわくわくする感情はあった


「ここでね、行きたい場所あるの!」

「どこだ?」

「アイス屋さん!」

「コンビニで良くね?」

「コンビニのより全然美味しいから松橋くんにも教えてあげる!」


 アイスなんてどこだって一緒だろとも思ったけど、緑川は目を輝かせていたので断り辛くそのまま付いて行くことにした。

 緑川に案内されながら到着したそこにはいろんな種類のアイスがあった。ここまで多いと悩んでしまう気もあるが無難にチョコレートとバニラ、緑川はなんか長ったらしい名前を頼んでいた。


「もしかしてカップルですか?」

「はい! デートです!」

「いや、ちげーから!」


 店員さんが変な質問をしてきて、緑川が変な返答をした途端に働いていた従業員が一斉に唄を歌い始めた。え? なんですかこの空気、フラッシュモブ的ななにかですか? 緑川に聞くとカップルで来ると歌を歌って祝福してくれるらしい。こんな公開処刑ってある? 店内で食べてる人も俺たち見ながらニヤニヤしてたしはっず……緑川はまんざらでもなさそうで、俺は溜息をつきながらアイスの受け取り口へと向かった。


「え……?」

「…………」


 目の前に流歌がいた。水瀬さん家の流歌ちゃんがいました。へぇ、こんな所でバイトしてるんだね、幼馴染だけど俺知らなかったよ……


「る、流歌……これは違くてさ」

「ごゆっくりどうぞ、バカップル様」

「…………」


 またしても流歌に勘違いさせちゃったし、今日ここを選んだ緑川を激しく恨むのだった。






 ▼





「あー終わったわマジ終わった……」

「ま、松橋くんどうしたの……? さっきからこの世の絶望を見てきたような顔してるけど?」

「見たっていうか体験したんだよ。もうどーだっていいや人生」

「何されたの!?」


 流歌に勘違いされて拒絶されて、もうこれ修復なんかできっこなくね? 何をしても裏目に出るならもう何もするなって神のお告げなんじゃないの? そう思えるくらい現実が流歌に対してハードモード過ぎるんだけど。


「緑川って流歌のこと知ってっか?」

「るか?」

「青山流歌、一応同級生なんだけど」

「うーん、私は知らない人かな~」

「俺、そいつの事好きなんだよ」

「え?」


 この際、緑川にバラしても構わないだろう。どうせ結ばれることなんてないし、俺がそう説明すれば今まで緑川を拒絶してきた理由にも繋がるし。それでなにもかもスッキリできると思った。


「ずっと幼馴染でさ。小さい頃から仲良かったのに最近じゃロクに口も利いてくれなくてさ、拒絶されてんだ」

「なんで?」

「そんなの俺が知りたいくらいだよ。でも聞いても話してはくれないし、だからもういいかなって。緑川を拒絶してたのも忙しいって言ってたのもそれが理由だ」

「そんなの間違ってるよ」

「は?」

「そんなの、青山さんは間違ってる」

「ちょ、緑川……さん?」

「ちゃんと話をしないで一方的なんて酷いよ」

「いや、まぁ俺が何かした可能性もあるわけで……」

「でもそれを松橋くんは分からないんでしょ? なら教えてもらうしかないよ」

「それができたら苦労はしないんだけどな」

「なら聞こうよ」

「え?」

「本心を聞いて、仲直りしようよ!」

「いや、でもお前……」

「私も松橋くんに助けて貰ったし、今度は私が助ける番だよ」


 俺と流歌の問題。緑川には関係はない事だけど、それは緑川の抱える恋愛においても同じ事が言えた。

 俺だって緑川の恋愛なんて知ったこっちゃない。けど中途半端に知っちゃって緑川に頼まれて少しだけ付き合わされた。別に大した事はしてないけど、それを恩義に感じてる緑川は今度は俺を助けようってか。


「でも緑川、お前にメリットなんてないだろ?」

「メリットがあるか無いかなんて関係なく無い? 友達が困ってたら助けてあげるのは普通じゃん」

「友達?」

「うん、友達。友達が苦しんでたらさ、助けたいって思うじゃん」

「緑川……」

「このままなにも知らないまま、過去を引きづったまま生きるのしんどそうじゃん?」

「緑川、お前って案外優しいんだな」

「でしょ!? 私の魅力にようやく気づいたんだね! 少し遅いなとも思うけど、気づけたんならよしとしようじゃないか!」


 都合の良い解釈、都合の良い笑顔。だけどそんな笑顔に救われた。一緒に悩んで考えて助けてくれるって人がいた。

 貰った恩を返したいだけなのかもしれない。けど世の中にはそんなもん返さないヤツだって大勢いる中でも、緑川は違かった。


「けーど、とりあえず今日はデート優先で行こう!」

「分かった。これが終わったら俺の相談も乗ってくれ」

「任せて! 大天使美羽ちゃんがなんでも解決してあげるから!」


 天使でも悪魔でも小悪魔でもなんでもいいけどな。今日は、とりあえず今日の所は緑川の恋の相談に集中しよう。

 それが終わってから俺の恋も緑川に相談乗ってもらう。


 曇りがかっていた視界が少しだけ晴れた。そんな気がした。


「あら、光輝くんじゃない。私を差し置いて他の女の子とデートかしら? 関心しないわね」

「げ……千歳先輩……」


 やっぱり今日の俺は終わっているらしい。




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