第3話 修羅場る要素ないのになんで修羅場ってんの?
「んで、話を戻しますね。コンクールの件ですけど」
「私の告白をないがしろにしてよく言うわね」
「いやほんと、話し進まないんで……」
「分かったわ。一旦凍結にしておいてあげる」
千歳先輩はそう言って俺も横から離れて向かいへと移動する。千歳先輩に会うと毎回と言っていい程こうやって刺激の強い絡み方をされてしまう。
「それで、写真コンクールの被写体モデルの依頼だったわね」
「はい。ぜひ千歳先輩にお願いしたくて」
「承諾するか否かを決める前に1つ聞きたいことがあるわ」
「なんでしょうか?」
「なぜ、私を被写体に選んだの? 涼太くんには他に
ドリンクバーのメロンソーダを飲みながら千歳先輩は俺に聞いてきた。
確かに先輩の疑問は当たっている。俺は元々その被写体を流歌にお願いするつもりだった。でも今は何故か嫌われてしまって依頼が出せないってわけだ。だから千歳先輩にお願いするってのも虫の良い話だし、本人にそれを直接伝えたって不快な思いにさせるだけだし言わないけど。
「今回のテーマが香りなので、今俺の中で合っているイメージが千歳先輩なんです」
「そう、それならいいけど。けど、去年と同じモデルでいいのかしら? 新鮮味も新しさもないけれど」
「問題ありません。千歳先輩の表現力なら1回、2回で飽きられませんから」
少しだけ口角を上げてありがとうと先輩は言った。元々モデルをやっていた千歳先輩。今は学業に専念したいって理由で活動休止しているけど、ここまでの逸材と交流を持てている事が信じられないくらい幸運だった。
千歳先輩との出会いは運命だとか赤い糸だとかそんな華やかなものではなく、ただ自然公園で読者をしている先輩に一目惚れ。
俺の素直な気持ち、一目惚れってワードが偉く気に入ったらしく、撮影モデルの件を引き受けてくれた。
1年時のコンクールでモデルを依頼した時は快く引き受けてくれて、その圧倒的なビジュアル。モデルをやっていた経験からなる表現力に惹かれた。元々モデルをしていた経験も活かして度々俺に現場などで培った技法などを教えてくれる。
その交流がいつの間にか恋愛感情? に変わっていき、会う度に好きだとか家に来ないかとか攻めに攻められている状態だ。
「日程はどうするの?」
「千歳先輩の都合の良い日を聞いてから決めようかと思ってたんですけど」
「私はいつでもいいわよ。もう仕事もしてなくて暇だから」
「じゃあ俺が案をいくつか出すんで、それで決めましょう」
「いいけど、その日は夜も空けておきなさい」
「なんでですか?」
「お泊まりするからに決まってるでしょ?」
「しませんから、泊まりませんから!」
「そこまで拒否されると私のプライドも傷つくのだけれど」
相変わらず魅力的に蠱惑的に俺を誘ってくる千歳先輩。そんな猛攻に俺は必死になって耐えるのが精一杯だった。
「あー! 松橋くんなんでここに居るの!?」
「え、緑川?」
「ほ〜ら、やっぱりデートだったんだ!? 嘘つき! 抜け駆け禁止って言ったのに!」
「だから違うって言ってんだろ!」
「別にデートでいいじゃない。えぇ、デートよ。これは私と光輝くんのデートなのよ」
「先輩まで何口走ってんですか!?」
「光輝くんと貴女の関係は知らないけれど、他人のデートを邪魔しないでもらえるかしら」
二人っきりの空間を邪魔された千歳先輩が緑川に物申した。
これも別にデートってわけじゃないんだけど、これ以上そこを指摘したらしたらで俺に飛び火しそうだし、ここは大人しく黙っておこう。
「でも、私も松橋くんと今週の日曜日にここに来る約束したんですよ。でも断られちゃったので不服なんです」
「だって光輝くんは私のだから、光輝くんが貴女の誘いを断るのは自然じゃないかしら? 彼女がいるから他の女の子とお出かけは遠慮した。ただそれだけの事じゃない」
「え、松橋くん彼女いるんじゃん! 嘘つき!」
「いや、だから千歳先輩は彼女じゃないから」
よく分からないけど修羅場ってヤツですか?別に俺どちらとも付き合ってるわけじゃないし、緑川だって他に好きな人いるし、三角関係にはなり得ないのになんでこんな修羅場ってんの?
「光輝くん。この人は誰かしら? 私達は大事な話をしているのだから、お引き取り願えるかしら」
「コイツは俺の同級生です」
「松橋くんのマブダチの緑川未羽です」
「そう、緑川さんね。私は赤沼千歳よ。他校ではあるけれど、光輝くんの先輩よ」
「邪魔しちゃったのはすみません。でも松橋くん、この件はあとで尋問だからね」
「あーあー分かった分かった。また学校でな」
これ以上何か言い合いになる事は無く、緑川は俺達の前から姿を消した。
盛大な溜息を零すが、目の前にいる千歳先輩はどうやら物凄く不機嫌らしく、飲み物を飲んでいるのかと思いきや、めっちゃゴリゴリにストローを噛んでいた。
「す、すみません先輩」
「全て光輝くんが悪いってわけじゃないから不問にしてあげるわ。私との関係をただの先輩後輩の関係にしたの頂けないことだけれど」
「むしろそれこそ事実じゃないっすか……」
ムシャクシャしたと言う理由で千歳先輩はもう一つケーキを頼み、糖分を摂取したら満足気に微笑んでいた。
「今度私と会う時は邪魔が入らないようにしてね。次邪魔が入ったら次からは私の家で話し合いをするのを義務付けするわよ」
「家はマジ勘弁です……」
「なら邪魔が入らないようにしなさい。いくら光輝くんが意気地なしで頼りなくておバカさんだとしても、それくらいはできるのでしょう?」
めちゃくちゃキレてる千歳先輩の様子を伺いながら、先輩の気が落ち着くまで一緒にケーキ屋さんにいる羽目になった。
▼
青春薔薇色人生だったのに流歌とまともに話さなくなってからは青春もクソもなかった。それでも俺の心は流歌に向いており、どうにかして話をしたいと思っていた。
もし問題が俺にあるならば誠心誠意謝って許してもらうしかないが、今はまだ原因自体つかめていなかった。かといって学校終わりに校門で待ち伏せするとストーカーと思われそうだし、今の流歌なら俺を犯罪者扱いしてきそうだし却下だ。
「けど、どうすればいいんだよ……」
「松橋くん、何悩んでるの?」
「え? なんでお前いんの?」
昼休みの屋上にて1人黄昏ていると隣には緑川が居た。いや、ここに来る途中にめっちゃ警戒したんだけどなんで普通にいるの? 俺それめっちゃ恐いんだけど。
「クラスの人に聞いたら屋上に行ったって」
「アイツらマジでしばく」
「松橋くんの悩み、私にも話して。松橋くんが苦しんでるなら助けてあげたいし」
「いや、これは俺とアイツの問題だ。緑川に入ってもらうつもりはない」
流歌と緑川は大して仲良くないだろうし、そもそも緑川を混ぜた所で問題が解決する方向に進むとは到底思えない。それでも役に立ちたいといって聞かない緑川のわがままっぷりには呆れを感じさせる。
「私じゃ頼りにならない?」
「まぁ、それはあるかもな」
「松橋くんのバカぁ!」
俺を貶すんじゃなくて自分の信用の無さを恨んで欲しいんだけど。ってかネクタイ掴むなよ首がめちゃくちゃ締まるから。だが想像以上に強めだった緑川の引っ張り具合に俺は耐えられず緑川を巻き込みながら倒れそうになる。
このまま倒れて緑川が頭を打つとか怪我をしてしまうのだけは避けなければいけない為、咄嗟に緑川を抱きしめて頭を手で覆う。
「痛てぇ……」
「松橋くん……」
緑川に覆いかぶさるように倒れ、痛さに歯を食いしばっている俺の様子とは真逆に緑川は瞳を輝かせながら何かを期待しているような眼差しだった。
「松橋くん積極的……けど悪くない、かも」
「いや、何勝手に妄想してんだこのビッチが」
「ビッチ!? 私はまだ処女だよ!」
「その自己申告要らないからな!?」
「キモ」
「え?」
「え?」
俺と緑川の言い合いの最中、明らかにソウルジェム真っ黒な声音が聞こえた。声のした方を見るとそこには汚物を見るかのような視線を俺に向けた流歌が立っていた。
俺の今の姿を傍から見ると水原を押し倒しているようにも見える訳で、何が言いたいかというと完璧に流歌に誤解されてしまっている。
「る、流歌これはちが――」
「話しかけないで」
「流歌……」
「最低」
流歌に再度拒絶される。なぜこの場所に流歌が居たのかは分からないけど、深い溝がより深まったことに落胆する。
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