笑顔の裏で
どうしても吐き気を我慢できなくなって、トイレへ走った。
入学式前なこともあって扉は全て閉まっていたけど、開いた個室に飛び込んで素早く鍵をかけ、流水音のボタンをガチャガチャと押し続けた。
音が出た瞬間、込み上げてきたものを全て吐き出した。わざわざ喉に手を入れなくても胃の中は一度で空っぽになってしまった。暴れ回る心臓をなだめるように胸を押さえる。
滲み出てきた涙を拭いながら、本当に水を流して立ち上がる。動悸がもう少しおさまるまでは、ここから出ない方がいいだろう。ゆっくりと、壁に背中を預けた。
早く教室に戻らないと入学式が始まってしまう。目を閉じて、乱れた呼吸を整えるため細く長く息をつく。
魔術を使えるのは女性だけ、だから魔術学校には女の子しかないはずなのに、いったいどういうことなんだろう?
別に彼に何かをされたわけではない。あくまでも、今日初めて会った人であいつとは違うって、頭ではちゃんとわかっているはずなのに。
でも、顔も、声も、もう大人のものだった。
怖いよ。
腹をくくって、鍵を外した。
いつの間にか、トイレから人が消えている。
――急がなきゃ。遅れて教室に入ったら目立っちゃう。
どうして出会ってしまったのだろう?
ひたすら自分の運の悪さを呪いながら、いつもより念入りに手を洗ってから、水をすくい、口をゆすぐ。
手洗い場の鏡に写った真っ赤な目をゴシゴシと擦る。目の腫れをそれでごまかせるわけもなく。
花粉症とでも言おうかな……そう決めて、余計にひどくなった顔に背を向け、教室に早歩きで向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます