虚術の弾丸

気配もなく立ち上がり、そして本来の悪魔の姿と言わんばかりに

トークンズの群れを薙ぎ払う悟。


首から下に魔改装甲シェディムギアの様なモノがまとわりついているが

そのパワーは桁外れに見えた。

結は時計型のデバイスで彼の状態を確認する。


「Devil:(D)」・・・(D)状態と言うのはデストラクション形態。

かつて彼が戦闘悪魔だった頃の本来の姿。

力を抑えていたのは必要以上に全てを破壊してしまうからであって

それ故に傷ついてきた彼が自らを縛っていたタガが外れてしまっている。


その力は素手で敵の関節を力づくで引きちぎって解体したり

解体した敵の一部をモルフェウスパワーで変形させて鋭利な剣に変えて

突き刺しては爆散させる・・・普段おとなしい悪魔が見せた事の無い

暴力と形容せざるをえない一部始終を結は目の当たりにする。


「あー、もう疲れると殺っちまうもォん。結ちゃん無事?」

湧いて出ていたトークンズを全滅させると悟は元の姿に戻っていた。


「私はどうにか・・・綾さんが奥の方まで行ってしまったんですけど

 早く助けにいかないと。」


「待たれよ。そのなんだっけ?ヨモツイクサのパワーの使い方は

 寝てる間に霊核の結晶体からリスニングしてきたぜ!」


その頃、ダンジョンの奥まで斬り込んで消耗した綾は

祟り神と化したイザナギと会敵していた。


「これが神話のイザナミの旦那様かよ!?随分とまぁ」


血の匂いと数多の呪いを背負い込んだその姿は

かつての神の姿とは思えない程変容していた。


綾は昂る闘争本能とは裏腹に減って行く魔力に不安を感じていた。

刀の狙いを定めた矢先、イザナギの身体から

黒い雷の様な球体が出現し、綾に叩きつけられる。


「ッ・・・!?」久々に血を吐いた。

まるで重たいモノに潰された様な感覚。一気に血の気が引けて

呼吸するのもままならない。激痛が波打つのに時間は掛からなかった。

ヘタに動けば肺まで破れる様なその痛みに悶えることしか出来ない。


赤黒く光るオブジェの様なイザナギは戦闘不能に陥った彼女を後目に

ヨモツイクサの霊核石・・・結の元へ行こうとする。


「待てこのやろ・・・グォボッ!」

もはやトドメを刺されない事が屈辱であった。

しかし、身体はどうにもいう事を利かなかった・・・

それほどまでにこのダンジョンはデバフを掛ける事に特化している

魔術師や悪魔探偵を殺す為のタチの悪い空間だったのだ。


「コレハ・・・」


イザナギが観たのは全滅したトークンズ。

丸焦げにされ、串刺しにされ、バラバラに解体されたそれらは

悪魔の力によるものだと確信した。

この祟り神の目的はヨモツイクサの集合体である霊核石を喰らい

完璧な存在になる事。穢れに毒された自らの原罪を洗い流す為に

この祟り神は殺戮を行おうとしていたのだった。


「こっちだぜ。」

魔改装甲シェディムギアを纏った悟が地獄の業火を浴びせて

一気に壁際まで押し込む。しかし、魔力の減衰が早くなるこのフィールドでは

それも長くは続かない。彼の目的は短期決戦にあった。


「リュウノアギト・虚術弾ホロウバレット!」

炎が途切れた瞬間にヨモツイクサの霊力を纏った光の弾丸・・・

外す事のない魔弾を掌から放つと霊核の力の軸を逆転させたそれは

イザナギの核を不協和音を響かせながら抉る。


「ダケド、コレデ・・・シネル。ラクニナレル・・・」


「それが救いなのかよ?俺には分からんぜ」


悪魔ですら憐れむ程の儚い散り際だった・・・


すると、ダンジョンの構築が解けて現実へ戻され

場所は再び今際野探偵事務所へ戻る。


「綾さん!大丈夫ですか!?」


「どっちかと言うと死にそう・・・」


「まぁ慌てるんじゃないぜ。呪い系喰らってないからコイツでだぜ!」


芥子河原が悪魔血清の注射を施すと綾の青ざめた顔は紅潮していき

骨折していた部位も回復して元通りになった。


「悪魔ちゃんに貸し一つ出来ちゃったなァ。

 ところで、さっきの注射って人間に使って大丈夫なの?」


「まぁこれから12時間冬眠する様に仮死状態になるけど大丈夫だと思いますよ?」


「保険適用外だけど、実質タダだから勘弁だぜ。急だったし。」


「結ちゃんで実験済みかよ。この悪魔め・・・」


綾は皮肉を込めながら泥の様に眠りについた

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