掃除屋:前野豊の彼岸花

前野豊マエノ・ユタカ・・・ヨミサカクリーナーズに努める35歳男性。


腐れ縁な同僚の後藤穣ゴトウ・ミノルは38歳ながら

お笑い芸人で天下取る道を未だに夢見ている。

別に夢を追う事に年齢なんか関係ないとは思うが

果たして有名になって注目を浴びる事が何になるのか?

果たして、努力とは自分の為に黙々と行うモノなのか

努力している姿を誰かに喧伝する為に行うかを選ぶとしたら

おそらく成功してる人は黙って前者を選んでると思う。


傍から見ればしょうもない事が面白く見えたり

なんか一つのストーリーに見える・・・


我々は魔獣の痕跡の清掃等を主に行っている。

昔の職員はしこったま戦闘に駆り出されてたと詠泉坂ヨミサカ隊長が言ってたな。

作業中に業務関連の霊障や呪いを受けた時に摩耶マヤ先生が治療してくれるが

彼女が一つ興味深い事を言った。


「よく旅客機とかで『お客様の中にお医者さん居ませんかー!?』ってシチュあるじゃん?」


「本当にそれに遭遇するの稀だと思いますけどね。」


「仮に私がぶっ倒れたら『いや、お前かーい!?』ってなるよね。」


「あんま、笑えないかなぁ。」


人間に役割が与えられるとその人の人生に題名が振られると思う。

だから、役割・・・何の為に生きてるか分からない

自分が何者でも無い状況って言う題名の無いストーリーを

誰も演じる事が出来ないんじゃないか?

アルバイトだろうと正社員だろうと

自分のやる事が分かって無い所で浮いてしまうのは死んでも避けたいだろう。


役者は役に没頭する為にそれが何者であるかをまるで憑依させる様にイメージして

本当にそうなった様に演じる人が居る。たまに抜けられなくなって

「前の役から抜けられない病」が発生したりもするらしい。


かつては何者かになりたくて、自分の取り柄とか誰にも無い個性があると信じて

弾けない範囲で集団と上手くやって来た。

未だに学生時代の友達の愚痴を聞いたりもするけど

子供の頃に教えてもらった助け合いの精神とか幸せの朧気な形は

各々の解釈、匙加減のズレで崩れる時がある。


なんで恋人が出来たのに上手くいかない事をベラベラ言うのか?

なんで自分は悪くない部分を探そうとするのか?

なんで何か間違った事言ってる?と聞いてくるのか?

仮に間違いをこちらが見つけてお前は素直に認めるのか?


今の時代は弁えたり弁えなかったりでいちいち争いが起こる。

誰だって薄氷の上に居るようなモノ。必ずどこかで欲張りになるのに・・・・

別に寺で修行したわけじゃないけど現状維持と諸行無常の二律背反アンビバレンツ

いつだって音を立てずにせめぎ合ってるんだと思う。


ただ、何者にもなれず一般社会からフェードアウトしてしまった自分が

人間と悪魔の狭間で働いてる刺激的な日常に浸っているのは

誰かがやらなければならない自分にしか出来ない仕事だからだと思っている。

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