昭和96年の17歳

昭和45年10月2日

同じ日に産声をあげ、都会の喧騒から少し遠い村で育ち

そこはかとなく友達としょうもない事をして

そろそろ大人な事もしてみたい。

そんな双子の兄弟の日常は17歳の誕生日に崩れ去る。

昭和62年10月2日、有耶枚村うやまいむらでは

古くから受け継がれている土着信仰の神を祀る形式だけのお祭りだった。


しかし、その日だけは違っていた・・・

本来は魔界には下級悪魔やデビル流刑になった中級悪魔。

現世に影響を及ぼさない程度に牙の無い者だけが滞在を許可される。

しかし、魔界合衆国の博物館に保存されていた超級悪魔の力が目覚め

有耶枚村の儀式の波長に引き寄せられてしまう。


村に於いて成人を前にした少年が祈りの言葉を述べる。

その声に引き寄せられて、雷雲轟き時間軸までもが歪み

少なくともそこで起こった事は「地獄」であった。

魔獣が人を喰らい、血の雨が降る状況にその時の神代涼は

現実感を見出せなかった。そこからどういうワケか超級悪魔アスタロトの器として

長らくの間、彼は何者かに拉致されてから師宮しのみやに救出されるまで

17歳の肉体容姿を保ったまま34年間も保存されていたのだった。

彼にとっては今の時間軸は昭和62年に34年の長い時間を加算して

昭和96年と言った感覚だった。外の世界に触れてから

とんでもない情報量、進化した情報社会に触れ

あっという間に精神的に歳を取った様な気分になる。

まるで失った時間を取り戻す様に・・・


「兄さん。って言っても分かってもらえないかな?」


「分かるよ・・・これまで色々調べて来たからさ」


村での大災厄から政府筋の特務機関に出向するまでに

涼の弟、マコトは50代になっていた。

年齢不相応にガッシリした体格、少し白髪交じりの黒髪を

オールバックにした精悍な顔つき。

ヨミサカクリーナーズを統括する組織のとあるビルの一室で向き合う

時が止まった兄と年上の弟。二人が並ぶと何となく似通っていていた。


「どうしても悪魔関連の事は表に出来なくてね。僕の様な人材が上ってったんだ」


あの後で村は存在ごと無かった事にされ

今では都市伝説のフェイクとして語り継がれている程度である。


「あの時、自分が何をしてどうなったか覚えてないんだ。」


「例の悪魔を取り込んで収めたんだよ。元から兄さんにはそういう力があったらしい。ゴタゴタしてる間にいつの間にか姿を消してたけどね」


「ホント、最近目が覚めた感じだから何か疲れるんだよなぁ・・・」


お互い解れた時間軸を手繰り寄せる様に話を重ねた。

涼は奇跡を起こした代わりに失った時間。何故この時代なのか?

何らかの必要に迫られて今更外界に解き放たれた・・・

根拠は無いがそういう確信が胸の中に渦巻いていた。




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