魔界の刑務所・作業編

兎にも角にも、みんな揃って活動するワケだが

俺が居たのはZ班と言う人間から見れば微罪な連中が集められ

特に悪さもしない脳味噌からの数値みたいなのが出てるので

案外自由に出来る。ただ他のヤツに接触禁止。ここは人間も一緒らしいな。

どこかいく度に看守にボディチェックで肋骨折れそうなぐらい

バンバン叩かれて、もう少し加減して欲しいもんだったな。

悪魔プロレスをかじってた俺様は悪魔超合筋なのだが

腹筋をバキバキに固めておかないと内臓まで衝撃が来るのだった。

怠惰を貪る筋トレしてない悪魔達にとってはこの段階で病舎送りにされるヤツも

結構居るんで、彼らは座学で人間の世界の厳しさを叩き込まれるのだ。


冬場ともなるとカン、カンと配管から暖房の熱が伝わってくる音で

囚人達の目が覚める。深夜30時起床が基本なのだ。

俺様の魔術の一部である煉獄の炎により所内の燃料に火が灯る・・・

と言うより炎魔法が使える職員もしくは受刑者が居ないと

みんな凍え死ぬのだ。みんなより早く起きて人より多く仕事をすると

人間界に行ったときのボーナスがデカい。

このアーバンスクエア刑務所は100万年の歴史を誇る。

なんかアーバンスクエアってマンションの名前みたいだよな?


「893番ゥー、点検!」まるで日本の暴力団の呼称みたいな番号だが

所内では俺の名前である。ある程度熱源を過熱してやれば機械は動き出す。

俺は過給機と呼ばれる暖房のハッチを閉めて作業を終了する。

機械入れてるならもう少し人力を割けないモノか?

悪魔は訝しむのであった・・・



さすがにシャバと違って魔力がパワーダウンされてるので

完全に腹が減って房に戻る。たぶんさっきの1時間で1kgぐらい体重減ったかも。

「あっ!芥子河原ケッシ―さんまた丸焦げじゃん!」


この房に居るのは俺以外同じヤマでしでかしたネットワーク犯罪者だ。

何でも違法な蟹ビデオの撮影とかシャコの交配の無修正映像とか言う

甲殻類が大好きな悪魔達にとって禁断のブツを違法販売した罪なのだ。

こういう時は別々の班にして仲間意識とか削ぐのが基本なのでは?

そんな事を考えてる自分がどんどん人間臭くなって行くと気付く。

外だと念で相手の脳に直接会話出来たりするのに、その類も禁止なので

みんな知能が落ちた様な悪魔になっていくのだった。


とは言っても、俺は少し黒ずんだ顔のまま飯を喰うので

歴戦の修羅場をくぐって来た他の悪魔達にはそれがツボにハマり

大声での私語は禁止されてるんで、笑いを堪えながらその日の朝食は

・ジゴクアリゲーターの蒲焼き(俺は醤油派だけどみんな塩コショウで喰う。)

・シラタキと豆腐の甘酢和え(これが楽しみな人も居るが俺は苦手)

・麦飯(半端ない量)

・鉄管ビール(水道水)


「昨日の肉、あれ何の肉だったっけ?」


「あぁ、地獄大蛇のバジルソース味な。美味いんだよなぁ・・・」


飯の話となると・・・と言うか飯以外の楽しみが無い。

人間の囚人は坊主頭に剃ってたりするらしいが髪型は自由。

整髪料は無理なんで、ハサミを借りて伸びた所を切ったりしてる内に

結構様になってくると言うのが魔界刑務所あるあるだ。

だけど角が生えてるヤツは強制的に頭から3cm未満になるぐらいに切られ

その感じがたまらなく牙の折れた獣の様な哀愁を引き立たせるのだな・・・


作業は立ち仕事、座り仕事などに分かれていて

立ち仕事の人はタンパク質多めの飯を宛がわれる。

どうしても体力有り余った囚人が立ち仕事を望んで

プラスで筋トレしてるのなんてよくある話。

悪魔にとって筋肉はステータスなのだ。

基本、パワーダウンしてるから流刑されないでシャバに出られる悪魔は

1から魔術を習得しなければならない。これが地獄のペナルティの辛いトコ。


作業と言えば塀の中に入り込んできた害獣の駆除である。

この時だけは囚人に銃火器の所持と発砲が認められている・・・

飯をくれる職員に銃口を向けるなんて悪魔みたいな事するワケねーだろ?

武装蜂起して脱獄をしたところで魔力が下がった状態でシャバに出るのは

かなり自殺行為だし、身分を隠して出来る仕事が全く持ってない。

逃げたところで魔獣の餌になるのがオチなのだ。

そして始まるエイリアン的な化け物がウジャウジャ湧く区画の掃討。

これがなかなかストレス発散になる。

ここで経験値みたいなのを稼いでストレージデバイスなる

腕時計みたいなガジェットに戦闘データが記録され

それに応じた報酬を後で頂戴すると言う寸法だった。


こういう時でも奴らの弱点である炎の魔術をある程度使える俺は

矢面に立たされ、渡された弾が尽きても生存率が高い。

殺られてしまう懲役くんも居るが、こういった運の無い悪魔は

シャバに出られる程度の微罪でも自動的に流刑扱い・・・


ここは弱くてニューゲームな状況から

落ちたレベルを元に戻す為の叩き上げの現場。

必死こいて生き残ってから食べたチョコレートの味が

ちょっと香りの抜けた苦みで好きだったけど

殲滅するぐらい狩らないと貰えないのがしんどかったぜ。


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