芥子河原の夕暮れ・廃村の謎

芹沢綾がコーヒーカップを片手に話しかけて来た。

結ちゃんは別件でお出かけ中だ。

彼女が居れば女子トークに花が咲いて面倒が無いんだが・・・



「ほら、例の馬鹿悪魔と一緒に居る神代くん・・・」


「あぁ、アスタロトの件か。」


「そうそう。超級悪魔倒す事が私が魔法少女だった頃に課せられた

 試練みたいなもんだったんだよ」


俺はデビルPCの最適化デフラグの途中だが、事情が変わった。


「超級悪魔ってのは本来魔界の博物館で保存されてたが

確かにここ数年で異変があったのも事実だ。

どっか行ってしまって行方不明なのが現状・・・」


「持ち去られたとか?」


「眠っていたのに覚醒したんだなコレが・・・」


おそらく魔界と現世との繋がりがガバガバになっちまってる現状・・・

神話でいう所の三途の川に澱みが発生し

どちらかと言うと流れが魔界寄りになって

本来、天へ召される人が手違いで来てしまうので

彼らを正規の手続きで向こう側へ送り出すべく

サタン様のお仕事がマシマシになったのは言うまでもない。

超級悪魔達が暴れて現世に干渉したと言えば辻褄が合う。


「その魔力を手に入れて何を目的に戦ってきたんだ?」


「え?悪魔が悪さするから片っ端から殺せって言われただけさ。

 化け物を倒すつっても生きてる人間の方が恐ろしいってオチだけどな。」


まぁ俺みたいな秩序側の悪魔が多い現状の中で

現世に渦巻く憎悪を利用して暗躍する悪魔は居る。

そういうのに対抗する人類が居れば好都合だ。

芹沢綾の生い立ちを聞く上では

そういう奴らを狩るのを仕事にしてきたらしいが

いつの間にか魔法少女同士の殺し合い

そして違法少女として悪魔、人間見境なしに手に掛けて

魔界用品を流通させると言った地下化が進んだらしい。


「何人も闇落ちしてったよ・・・結局魔法に手を出したのが運の尽き・・・」


肝心の超級悪魔達はどこ吹く風で諍いが絶えなかった。

それが世知辛い現状らしい。戦いで勝ち名乗りを上げたのなら

おそらく何でも願いが叶うみたいな事を提示されたんだろうが

誰もが幸せになれる世界を一人の意思で叶えるのは困難だ。

人は幸せな未来を求めるだろうが

お人好しは周囲が不幸な時は気を遣って幸福を躊躇う。

次の結果に辿り着くまで自分にとっての濡れた毛布ウェットブランケット

今までの勿体ない所ばっかりを考える。

そういう意味では悪魔に魂を売った様な自分大好き人間が

即物的な幸福と快楽で肥え太るのだ。

まぁ、物事の一つ一つに哲学何ぞ見出さなくても良い。

得た結果に助けられるか殴られるかの違いぐらいしかないって答え。


「あの子に超級悪魔の・・・アスタロトが乗り移ってるって事で良いのか?」


「郊外にある『有耶舞村うやまいむら』って所で数年前に異界送り・・・

魔界と一時的に繋がる事件があったらしい。そこに悪魔結界の痕跡があった。」


「そこでもしかしてあの子が何か関係してるのか?」


「そうすれば辻褄が合う。当時、現場に駆け付けた警察官が

 現在悪魔探偵として頑張っておられる今際野結イマワノ・ユイ巡査・・・」


綾は一瞬、言葉の流れを見失った。

「その話はどこで・・・!?」


「監視者さんの気まぐれだよ。

 彼女の才能を見つけて黄泉還りさせたのはあの人だ。」


そこで元来持ってた第六感を確かなモノに作り替えて

現在の結ちゃんが何の疑問も持たずに悪魔探偵として戦ったり調査している。

問題なのは現場に行った後の記憶がゴッソリ無いと言う事。

生死の境をさまよう何かがあったんだから仕方がないが・・・


その有耶舞村うやまいむらは現在廃村になっていて

地図から消された村として都市伝説の一部で語り継がれているが

動画配信者がよく心霊スポットとして撮影しに行って

「何か出た!居た!」と言い張るが全くの嘘っぱちだ。

むしろ異界送りで人が消えたら現世の低級霊など欠片も残らない。


そうでないのなら超級悪魔が野放しにした様な悪霊に喰われて死ぬ。

要するに本当に何か居たら生きては帰れぬのだな・・・

いずれ彼も己の中にある悪魔を垣間見る時が来るだろう。

秩序に生きる悪魔は痛みとか苦しみを耐え抜いたからこそ

己と向き合える。人はそういうのが難しい生き物だから

何でも他人のせいにして勝手に疑ったり争ったり奪ったりするのだ。

彼はどうなるだろうか?


悪魔はデビルPCのクロック音のカリカリとした音が

自分の感じる焦燥感に通じるモノがあると感じつつ

外は夕闇に包まれていった・・・





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