悪魔の鍋抗争

とある仕事を終え、祝勝会の蟹鍋パーティーと相まった今際野いまわの探偵事務所。

師宮しのみやヴォルテ准一は自宅でジビエの肉を拵えて食べようとしたら

食欲に負けて質の悪いモノを生食。現在食中毒で悶え苦しんでいるらしい。

悪魔は毒物に強いが現世の細菌やウィルスへの耐性は人間並でしかない。

まぁ曲がりなりにもデビル内臓だから医者いらずで治ったりもするのだが・・・

この場に会するのは芥子河原、今際野、神代、芹沢の4名。


しかし、こういう時に食いしん坊抗争と言うモノが発生する。


「いやー。俺、毎回、結サマに蟹をいただいてるから、ちょっとでいいよ?うん」


こう言っておけば少なからぬお零れを頂戴出来るって寸法だ。

食いしん坊の鍋抗争は牽制から始まる。

魔界では殺し合いにならない様に心理戦を仕掛けるのだ。


「ちゃんと食べないと、ヴェっさんにはお世話になってるんですから・・・」


「まぁいいや。うわぁ美味しそ。」


芹沢が仕掛ける。悪魔の意図などまるで蚊帳の外・・・


何ぃッ!悪魔の禁じ手の第13楽章:二脚同時捕食インフェルノレクイエムだとおッ!

 魔界では最大の贅沢と呼ばれし行為を・・・このままではあっと言う間に・・・無くなる!!


そもそも出汁が沁みていて美味しい野菜から食するのが魔界の作法。

沁みたネギが美味しい。お豆腐とシイタケも美味しい。

俺は本体へのカタルシスをショパンの革命のエチュードに乗せる様に

大事なモノを最後に食べるべく楽しむのがいつものリズム。

結ちゃんと二人で食べてる分には問題なかったのに・・・


「綾さん、いきなり身を食べちゃうと、楽しみが無くなりますよ。

 せめて均等に分けないと・・・」


涼くん!君は精神までイケメンだぁ!ステキ!

蟹よりイケてるよォッ!


空気の読める少年により、何とかある程度の蟹の身は確保したが・・・

食事と言うのは各々の育ち、生き方を体現するものである。

俺も食いしん坊だからデビル流刑になった経緯があるが

人間の世界は罰則が無い故にフリーダムなのだな。


俺は卑しく腹を空かしてるにも関わらず策を弄したのが仇となる。

面子が違うからって様子を伺った自分を呪う・・・


まぁいい。俺は蟹味噌を・・・芳醇な香りを放ちながら

俺を酩酊させるそれをみせろ!何度も言うが俺にモザイク・・・

いいや小細工は通用しないぜ!煮え加減を確かめる様に甲羅をオープン。


これは・・・拷問に屈しない悪魔が秒で降参すると言われる

魔界禁断の必殺技:蟹味噌摘出デビルマストダイだとォッ!

どこだ!どこに中身が行ったぁ!?・・・


「蟹味噌は炊き込みご飯にしましたよ。」


結サマ・・・なんと計画的な・・・

それはそれで美味しいけど、俺が卑しくデビった矢先に

野望は打ち砕かれた気分となった。


俺は中身が子供なトコあるからさ

ちょっと思い通りに行かないのが重なると

美味しいモノを食べていても何が喉を通ったかを見失う。


まぁいい。蟹は確保された。脚とかハサミの部分。

お出汁を飲みながら炊き込みご飯を食べて、身の部分は

最後まで大事にとっておくのだな。


待って居ろ・・・と取り皿を見やると、俺の分が無い。


「え?僕は食べてませんよ?」


「私も」


「ってか、師宮来てたんだな」


綾さん、今なんて?

背後に食中毒でくたばっていた筈の師宮が忍び寄って来てて

俺の取り分を当たり前の様に貪り食っている!?殻ごとボリボリと!!


「食中毒と蟹は別腹だ!美味い!」


「てめえこの野郎、地獄に堕ちろォォォォ!!!」


ナチュラルに事務所内で爆炎を出そうとした俺は

「ヴェっさん!蟹はまた食べられますから!落ち着いてください。」

と結ちゃんに宥められつつグリモワールのパワーで拘束されながらも

食い物の恨みでいつになく怒り狂ってしまったのであった。

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