この手を繋いでくれた人

特に事件と関係が無い芥子河原悟の休日。

彼は良さげな池を見つけ、ザリガニのキャッチアンドリリースに励んでいた。


フフフ。待たせたな。久々に俺の徒然草の再開だぜ!

この赤みがかったザリガニちゃんの・・・痛い!痛い!

指挟まないで・・・あっ!ぁあ!・・・取れたかと思ったぁ。


なかなかにデビルザリガニよりも狂暴だぜ。

魔界ではデビルザリガニを一心不乱に捕まえて優勝した事もあったけど

そういう割に合わなくてアホな事をしてる事で自分を肯定してた。

だけど、月日と言うのは残酷で、切ない雰囲気になって冷え切ってしまうと


俺は自分のやりたかった事がぽっかり抜けてしまって

その淡水の様な心は澱んでいく。水清ければ魚は棲まないと言うが

心がそうなっていくと自分の本心が自分で見えなくなっていく。

音楽に例えるなら俺がやりたいのは

セッション響き渡るロックンロールのはずなのに

いつの間にかブルースを好む。それは郷愁を映し出して俺達の時間を残酷にも

まるで孤独を奏でている様な、どうにもならない歌へと変わる。


たかがザリガニを釣ってるだけでもこれだけの事を思い描くのだな。

水面に映る自分が恐ろしく虚しい顔をしていると気付かされる時に

やはり、誰も傷つかない様な生き方をしたい。

一人で踊るワルツで良い。哀れで滑稽だろう。

孤独な分際で個性を気にして誰もしようとしない事に挑む。

他人に揺さぶられない何物にもなりたくなかった筈なのに

誰かに手を差し伸べてもらうのを待っている。


そういえばこの世界の空は青いな。天より仰ぎ見る者が居るとするならば

俺はどういう風に見えてるのか?そんなの気にしたくない。

この魂は地球の計算外の埃みたいなモンだ。

前より力は漲ってる筈なのに、俺はこの空の青に融ける自信が無い。


もう一度、水面に映る自分を見る。悪魔の鎧を纏って・・・

この姿こそが本当の俺。誰にも傷つけられない様に形作った

拒絶する者。変身を解く。やっぱり陽の光を憎んでいる顔だ。


都会のコンクリートジャングルからちょっと遠ざかった池の畔で

俺はこういう事ばかり考えてしまっていた。

そうしてないと時間の流れに精神が追い付かない。

そして自然な水や風の流れが俺の形を教えてくれる。


俺が誰かと踊るとか、そんな御大層な事・・・


「わっ!」

マジビビり!結ちゃんが背後にまで近寄ってたのかよ!

「この前見つけたんですよーここ。居ましたかザリガニさん?」


「いっぱいいたけど、ここのは狂暴だな。」


「行きましょう!こっちの用事は済みましたので!」


俺の手を取って連れてってくれる。何故かそれが嬉しい。

頭に浮かんでた哀愁はどこへやら。水で冷たくなってた手が

彼女の掌で温められると、気持ちを許してしまっている自分が居た。





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