悪魔探偵と注文の多い喫茶店

一方その頃、今際野結は元警察官のツテで情報を探そうとしていた。

警察官時代に一度死にかけて、と言うよりは一度死んで

黄泉還りをした時はまるで化けて出た様な気分だった。


そして組織に馴染まず辞めてしまった経緯があるとはいえ

お世話になった人。良くしてくれた人は多く居た。

要するに上層部に頭の固い人達が渋滞してるだけなのだ。

臨死体験をしてから死生観が大きく変わり

些細な事では苛立たなくなった。


街で警らしているパトカーを見ると懐かしさを感じる。

犯罪被害に遭う市民を守るのが役割だが

自分勝手な市民と答えのない押し問答をする事が多かった。

ある程度まで行くと「もう話を聞いてやらない」

「公妨(公務執行妨害)するトコまで泳がせるか」

と言った、冷血動物になるしか無い時だってある。


その頃に比べたら今の仕事はちょっとした映画みたいな刺激があって

不思議な力を手に入れて、目まぐるしく変化している。


悪魔さんのステータスを念写した時に

「芥子河原ヴェンデッタ悟」とか言う名前を知った時は

ちょっと署まで・・・って言いたくなる感じだったのを思い出す。

こっちで悪い事してないけど盗み食いで地獄出禁の流刑とか

端正な顔なのにちょっと抜けてるって言うか

地獄が変なルールに厳しいって言うか・・・


今日はお祓いでもドンパチでも無いので悪魔さんはお休みの日。

こっちのザリガニを見に行くとか何とか。

悪魔さんの甲殻類好きはハッキリいって笑えてしまう。


辿り着いたのは年季の入った喫茶店。

知る人ぞ知る「刑事を辞めた人が継ぐ」事で有名な場所。

ドアを開けると昼下がりで誰もいない。


「いらっしゃいまし・・・出・・出たぁー!」


おおげさなリアクションでびっくりしてるが

この流れ、もう5回目ぐらいである。すっかり慣れっこだ。


「はーい。あの世から還ってきましたよ。」


このひょうきんな店主は自分が新人の頃に四課(組織対策)に居た

いわゆるマル暴の元刑事の井上剣太郎いのうえけんたろう

厳つい顔の割にはギャグが寒い事で知られていたが

情報の網を張るのが得意で定年近くなっても近代化する犯罪に対処し

勤め上げた功労者だったりする。


「ご注文は?」


「B号です。最近の爆発事故に関する件で。」


B号とは警察無線で使われる贓品ぞうひん照会。・・・

本来は質屋をあたっていく様な捜査の事だが

少し前に起こった研究所の爆発事故に関する

不正な医薬品の流れ。その出どころを求めていた。


「この日付の記録なんだけどね。医薬品の輸送にしてはやたら厳重なんだ」


体制の圧力で真実を歪められる事が多い時代。

それでも真実を手に入れる執念がここにはあった。


「剣さん的にはこれ、どうです?」


「いやー。ヤベーモンって言うかね。陰謀論?

 みたいなの信じない方だけどそんな感じ。他所じゃ言えんな。

 データ持ってっていいから、後は自己責任で。」


貴重なデータの詰まったUSBメモリに情報料を支払う。


「ご馳走様です。」


「またのお越しを。探偵さん・・・って随分とお礼弾んでくれるね。」


「ここは数少ない真実のある場所ですから。」


「警官だった頃より笑う様になったじゃないの」


「・・・そうですかね?」


しかし事件の匂いを嗅ぎつけたら追い回す。そんな警官の性だけは残っていた。

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