悪魔・監視者と対面

「起きて下さい!起きて下さい!戻って!ごめんなさい!私・・・」


水の中の夢の様にどこかへ行く俺。

沈んでいきながらもあらかじめ知ってる様な場所へ

仰向けに運ばれていく・・・


あーそうだ。俺はあの後、腐った地獄のロブスターを倒して

それから・・・思いのほかかなり呪い貰ってやられたんだった。

無機質な白い天井で俺は回転寿司の皿の上のネタみたいに流れている・・・

海老さんってこういう気分なのかな?そうだ。手術されるんだった。


そう。あの後で結ちゃんが吹っ飛ばした地獄ロブスターの破片が

最期の意地で俺の腹の辺りに飛んできた時に呪いを受けた。

まぁ結ちゃんが無事ならそれでいいんだけどさ。

何かあった時は監視者の人に電話しておくと言うのが

悪魔探偵と悪魔の契約規定だ。

そして、その監視者さんのトコへ来て・・・

何にせよ、デビル死刑やデビル流刑を喰らう人間の処理を請け負うんだ。

これから俺は殺される?イヤ、まだ出来るから・・・

あの子をおいてはいけない・・・何考えてんだろ俺。


『人間様にかなりお熱の様だな芥子河原クン』


監視者ってのはどんな奴なのかってそういえば知らなかった。

いつも無機質な文字だけでのやり取りだったし

デビル死刑級の悪魔をも監視する存在だから想像つかないよね。


だけど白衣の似合う美人な女医さんだったよ。


「なんで一回起こしたんすか・・・」


「苦しむ顔が観たかったからと言うワケじゃない。ただ君は・・・」


「?」


「悲しんでいた。ずっとうわ言でパートナーの名前を呼んでいた。」


「うっわ恥ずかしいトコ見られちったよ。」


「だが君を慕う悪魔探偵もそうだ。いつにない不安そうな顔をしていたよ」


「慕う・・・?イヤ、俺はそんなに人望なんて・・・」


「まだ子供なんだな。素直になれないとは」


「・・・・・・」


「悪魔は涙を流せない。しかし悲しみは知っている。違うかな?」


「規定側なのにお喋りが・・・!ガァァッ!」


流石に浸食が早い。負傷ではないデバフの感覚が

肝臓の辺りを的確に抉る。悪魔は毒物を嗜む程度には内臓が強いが

呪いに関しては寒気モノだ。


「まぁ、悪魔の治療は単純だ。患部を破壊する。

 人間なら苦しんで死ぬだけだが悪魔はリセットして再構成できる。

 グリモワールで契約してる限りは君もかなりの逸材だ。

 現世ではかなり運がいい方だと自覚するべきだよ」


しなやかな指が俺の患部へと這う。痛みが薄れていく。

「悪魔くん。君に問おう。大人とはなんだ?」


「世間に裏切られた青年の成れの果てだ。まだ俺は夢を追うガキで良い」


「10万と33歳児らしい意見だな」


「他人に言われると腹立つなぁ」


患部の呪いはいつの間にか強い熱量に変換された。

その温もりに安堵して一瞬だけ自分が爆ぜるヴィジョンを叩きつけられる。

癒し系なのかサディストなのか、どっちだよお前ってぐらいの荒療治だった。

そして俺は・・・元の場所に再転送されていた。


「あ、悪魔さん!大丈夫ですか!?私のせいで・・・!」


肩を揺さぶられて何度目かで結ちゃんだと認識した。

夜・・・まださっきの戦いのちょっと後ぐらい。

監視者のいる空間は時空が歪んでるらしく

現実時間では一瞬の事だったらしい。

呪いを受けた場所は治っていた。


「良かった・・・!間に合って・・・!」


愛されるってこういう事を言うのかな?

たぶん恋とかそういう意味じゃなくて家族が無事だと嬉しいみたいな。

結ちゃんは泣きながら俺を抱き締める。泣く?嬉しいから?

どこまでも良い子だけどさ・・・

俺には良く分からない。そういう風に思われるのは悪魔的には辛い。

飾った言葉も無く、スーツ越しに柔らかい身体が吸い付く感じで

何かが伝わってくる。これが人間の温もりなのか・・・

悪魔は涙を流せない。それでも俺が迷って心揺れ動く有り様は

無駄に輝いてる下弦の月だけが知ってる事だった。




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