第2話 1

僕の父は右脚がなくて、母は左手が欠けていた。

そんな二人から産まれた僕は現代ではかなり珍しい産まれ方をした。

産まれてくる赤ん坊が手足欠落化して産まれるのが当たり前になった現代で、世にも珍しく、どこも欠けずに産まれてきたのだ。

どこも欠けずに産まれてきて、よかったとは思う。

人々は生活や成長に応じて、義手や義足を買い替えたり、メンテナンスをしたりしている。

人によっては毎日とか。

けれども、自分はそんな事をしなくてもいいし、何よりありのままの人間として生きていけるのは、周りを見ていて時々いい事なのだなと感じる。

……けれども、完全にいいとは思ってはいない。

手足欠落化は人類、ホモ・サピエンスの新たな進化の過程なのではないかとも言われている。

ならば、自分は劣って産まれてきてしまったのではないか、そうとも思ってしまうのだ。

それに周りの人々は義手や義足で普通の手脚じゃできない事もやってしまえる。

最近の企業では、同じ部分が欠落した人々が集めた部署でお互いに苦労を分かち合ったり、義手や義足だからこそできる仕事に取り組んだりもしている。

学校生活でも、自分が欠落した人に勝てる部分は何一つなくて。

欠落しているからこそ、より完璧に近づくのではないかと、そう思えてしまう。

だから僕は……。


……完全なのに、不完璧な自分が好きになれない。


・・・


何故か私は、全てを失って産まれてきた。

手足欠落化して産まれてくる人間は、必ず何かは残って産まれてくるのだが、私には残されたものはなかった。

けれども、普通に生きることに不便はなかった。

最新の義手と義足は高性能で何不自由なく生きていけるし、なんなら普通の腕と脚よりも便利に生きていけてる。

走るのは誰よりも速く走れるし、手先は誰よりも器用だと思うから、大好きなピアノはとても上手に弾ける。

だから、嫌なことなんてあるはずないのに……。

けれども私は思ってしまう。

私が凄いのではなくて、義手や義足が凄いのではないのかと。

私自身が大した人間じゃなくて、どうしようもない人間なのではないかと。

難しい義手の指を動かし、ピアノの鍵盤を上手く弾ける事を周りの人々は口々に凄いという。

けれども、それでも私の気持ちは満たされない。

ピアノだって、確かに弾くのは好きだけれど、時々嫌な気持ちになってしまう。

譜面を覚えて少し練習すれば、私はどんな音楽も完璧に弾いてしまえる。

でも、もし私の腕がこの鉄の腕じゃなくて、熱を持った肉の腕ならば。

確かに今ほど上手く弾けなくて、失敗をしてしまうかもしれない。

それでも努力し続けたら、今の完璧を超える演奏をできるのではないのかと思えてしまう。

だから私は……。


……完璧なのに、不完全な自分が好きになれない。

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