第1話 1
かの有名なミロのヴィーナスは『腕がないからこそ、見る人により美しく想像をさせることができる』と言われる。
なら今、21××年を生きる殆どの人が美しい人であると言えるだろう。
それは約100年前から進む、人類の『手足欠落化』のせいだ。
これのせいである人は『左手がない』『両足がない』『右手以外がない』といった、手足が欠けて産まれてくる人ばかりが産まれてくるようになったのだ。
手足欠落化の発生した原因や詳細などは未だ何も分からず、遺伝も関係していないということで、産まれてくるまでどこが欠けているのかがわからないのだ。
発生した当初は社会問題などが多く発生したが、現在はほとんどの人間が手足欠落化して産まれてくるので、いつからか消えていってしまった。
その影響か、義手義足の開発が大きく進み、今は手足が欠けて産まれてきても、なんら問題が無くこの世界で生きていける。
であるから、人々の生活も変わった。
「パス!」「ハイ!」「ファイト!」
僕が体育館に入ると、女子のバスケットボール部が練習をしていた。
ダンダン、と彼女らが動く度に体育館が震える。
反響する音が自分の耳に嫌というほど聞こえる。
練習している女子生徒達はごく普通の見た目をしているが、所々、不審な動きがあるのだった。
どこまで不審であると言っても、それは悪い意味ではない。
…良すぎる動きをするのだ。
四肢のどれかが、あるいはいくつかが人並み外れた動きをするのだ。
それが現代の義手足だ。
「……」
そんな彼女らを黙って見つめた後、練習の邪魔にならないように、大きくぐるりと体育館の中を周って、正面のステージに近づく。
そして、ステージの側で優しい声で僕を呼び止めた。
「あの、真野くんですよね?」
声の方向、ステージの上に目を向けると、一人の女子高生がしゃがみこんで僕を見ていた。
「はい。真野、真野優斗だけど……」
長い髪に整った顔。
スラリとした体型に、濃いめの黒タイツが目の前にあった。
「一体誰なんだ?」と思わず戸惑ってしまう。
そんな僕を察したのか彼女は口を開いた。
「あ、私。望月加奈です。卒業式のピアノ伴奏をする」
「ピアノ伴奏?」
「えっと、はい。……先生から聞いていませんでしたか?」
「んと……」
思い返してみても、そんな事は聞いていなかった気がする。
担任からの伝え忘れだろうか。
「ごめん。多分、初めて知った」
「そうなんですね」
確かに言われてみれば、答辞にピアノ伴奏があるのは当たり前なんじゃないかと思える。
何より、一人で孤独に練習すると思っていたから、誰かと一緒に練習できるならいいんじゃないかと思う。
それに、望月さんはかなり綺麗な人だし。
しっかりと挨拶をしておこう。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「はい!よろしくお願いします!」
彼女は素敵な笑顔でそう言った。
胸の奥が少しドキリとした。
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