君の温もりを知る、青春最後の一ヶ月。

足駆 最人(あしかけ さいと)

プロローグ

僕は卒業式で答辞を述べることになった。

僕の通う高校はかなりの進学校で、友人達なんかは受験真っ只中で、試験を受けに行ったり、家で勉強したりで大忙しだろう。

そんな中僕は、企業に就職することになり、学校生活も暇になっていた所、担任に答辞を述べることを頼まれたのだ。

卒業式は3月2日。

今日が1月31日ということは、練習期間は約一ヶ月。

卒業式における所作であったり、読むスピードなどをこれからの一ヶ月間で完璧に掴まなければならない。


「はあ……」


全校生徒やその保護者全員の前で立って言うというのはやはり、今からでも少し緊張する。

胸の奥がざわざわしているのが分かる。


「断ればよかったかな……」


そう思いながら、教室の椅子から立ち上がる。

もう後数回しか座らない椅子だった。

練習は今日から始まる。

明日からも、土日以外は登校して、練習場所の体育館のステージの上に行かなければならない。

残念な部分があるとするならば、明日から3年生は学校に登校することはなくなり、同級生が誰も来ないこの学校にわざわざ自分だけが毎日来るということ。

そんな事を考えていると、憂鬱な気分になっていってしまう。

けれどまあ、毎日退屈な日々を過ごすことになっていただろうから、それを思えばマシだと思えるだろう。

ガラガラと数人が勉強をしている教室から扉を開いて、廊下に出る。

窓の外を見れば、下級生の野球部がグラウンドをぐるぐる周って走っているのが見えた。

渡り廊下に出て、体育館を目指す。

校舎の外から聞こえる大声があっても、中はどこか物静かだった。


そして僕は彼女と出会うことになる。

高校生活最後の一ヶ月でこんな出会いができるなんて、僕は予想にもできなかった。

どこまでも完璧で、不完全な彼女と出会うことを。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る