第14話 お買い物

 麗らかな昼下がり。


「ふああぁ~~~……」


 ぽかぽか陽気に、思わず抱いている猫(サイズの虎魔物)と大あくびをしてしまう。

 学園を卒業して二日。騎士団への入団まで半月ほど時間の空いた私は、諸々の準備に勤しんでいた。

 パルティトラ王国騎士団は王都にある軍事総司令部に所属していて、有事の際は各地の砦に派遣され、地方自治体の軍と連携して活動にあたるんだって。

 あと、暗晦の森の周辺には五つの前線要塞があって、そこには定期的に駐留部隊が派遣されるらしい。

 なんにせよ、騎士団に入ると自動的に官舎住まいになるので、着替えや生活用品を持っていかなくては。フィルアートが「生活必需品は軍から支給される」って言ってたけど、最低限の話だ。しかも私は女子! 女子には女子として快適に生活する為のグッズが必要なのよね。

 と、いうことで。王都の繁華街に買い物に来ました。

 服と日用雑貨、あと武器も欲しいな。王子様は剣も支給されるって教えてくれたけど、量産品は長く使える物ではないらしい。だから、大抵の人はすぐに自分にあった武器を探して乗り換えるそうだ。

 そういえば、フィルアートの剣が軽くて使いやすかったから、頂戴っていったらダメって返された。……あの人、王子様のくせに意外とケチよね。騎竜ルラキもくれないし。


「ミュウ」


「うん、ちょっと待っててね」


 腕の中でむずがる白地に金模様の窮奇きゅうきの頭を撫でる。喉がゴロゴロ鳴るのが可愛い。

 デートの日に拾った魔獣の子供はすくすく成長し、三日目には乳母の猫より大きくなっていた。キディと子供たちが食べられちゃうかも! と焦ったけど、全然そんな素振りはみせず、今でも乳母と乳兄弟と虎の化け物は仲良しだ。

 ……環境って大事。

 今日は買い物ついでに窮奇の所有者登録もしようと連れてきた。

 この国は魔物が多く出没するので、魔獣産業も盛んだ。……といっても、高価なので簡単に手に入るものではないけれど。騎獣の他にも、乗れない魔獣……例えばヘルハウンドなんかを番犬代わりに飼う貴族屋敷もある。

 しかし、所詮魔物は魔物、人を襲う本能がある。そこで、飼っている魔物に食い殺されないよう鎖をかけるのが、『所有者登録』だ。魔法で契約された魔物は、契約者に服従することになる。

 隷属させるみたいでちょっと嫌だけど、魔獣と人間が一緒に暮らすには必要なことよね。

 この所有者登録は、街の魔獣店か資格のある魔法使いが執り行う。フィルアートに紹介された騎獣の専門医のところでもできたんだけど、まだ窮奇の容態が安定しないからって後回しにしちゃったんだよね。今は元気になってなにより。

 騎士団に連れていけば専任の魔法使いに無料で登録してもらえると思うけど。最近、窮奇の成長が著しいので、自分と家族の為に早めに民間業者で登録しちゃおう! と思ったのだけど……。

 それは大間違いだった。

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