終奏 - Family

EP26 誓い - Sweet Confession

『誓いのキスと、甘い花束を』


 本社、会議室。

「それにしても、いくらなんでもやりすぎってもんがありませんか。……社長」

「いずれ手を出そうとしてた分野ですから。丁度いい機会でしょう?」

 気が付けば会社に部門が一つ増えた。

 ――ウエディングプロデュース部。

「最初はうちの商品で仲を深め、結果としてうちで結婚式をあげる。いい流れでしょう?」

 確かにいい流れではあるんだけど、いい流れだけど。

「と、言う訳で第一回を僕達でやるんですね」

「実際に行った方がわかりやすいでしょう、シオン君?」

 まぁそうなんですけど……。

「しかも。これなら結婚式は経費で落ちるんです」

「うわぁなんか聞きたくないセリフだ」

 結婚式を経費で落とすとか絶対普通の人じゃやってられない。

 そう、普通の人ならば。

「そろそろ着替え終わるんじゃないですか?」

「……そうですね」

 コンコン、と会議室の扉を叩く音。

「ほら、花嫁が来ましたよ」

「あーはいはい、開けてきますよ」

 扉を開く。

 そこにはウエディングドレスに身を包んだゆめが居た。

「――!」

「どうしたの?シオン」

 あまりにもキレイ過ぎて、固まってしまった。

「まったく、いつまでも進歩しない息子ですね」

 会議室の扉を閉めるカリン。

「えっと、似合ってる?」

「うん、凄い似合ってるよ」

 良かった、と笑顔になるゆめ。

「お嬢様、またチーム競わせたんですか?」

「競わせたつもりは無いんですけど……満場一致でこれになりました」

 白いウエディングドレスの細部に散りばめられた花々。

 パッと見ただけだとシンプルなウエディングドレスなのに、細かく見れば見る程味わいが変わっていく。

「……見過ぎじゃないですか?」

「見惚れてたとも言うね」

 それを聞いたカリンが大袈裟に笑う。

「あのシオン君からそんな甘い言葉が出てくるだなんて」

「人を何だと思ってるんですか本当に……」



 それから数回の打ち合わせ――と言う名の会議が重ねられる。

 新郎として打ち合わせてるはずなのに、なぜか社員として会議に出席してる気がしてならない。

 今回はミニマルに家族だけでの挙式と言う想定で……いや、想定と言うか僕達の挙式なんだけど。

 隣に座るお嬢様はもはや新婦と言うより完全に仕事モードで色々なプランやデザイン案を出す。

 プレゼンの最中にカリンが近寄り耳打ちをする。

「シオン君は尻に敷かれますよね絶対」

「社長、仕事に戻ってください業務時間中ですよ」

 つまらないシオン君ですねと笑われながら大人しく座るカリン。

 そうして、僕達の挙式は決まった。




***



 会場を押さえて色々整理してで、気が付けば季節はもうすぐ春。

 結婚式当日――なのだが。


 覚えてない。

 忙しすぎて覚える余裕がなかったとも言う。

 とりあえず誓いのキスをした所は覚えてるんだけど。

 気が付いたら披露宴で盛大にケーキカットをしてる最中だった。

「あの大量のケーキを思い出すね」

「大丈夫、今日は食べ切れる量だから。……スタッフ合わせて」

 後はキャンドルサービスも人数が少ないからすぐ終わっちゃったし。

『このプランの一番は写真撮影に重点を置く所です』

 少人数でミニマルな挙式だからこそ。

 思い出を多く残せるようにとフォトウエディングにもフォーカスを当てる挙式。

「それじゃここから一気に写真撮っていきますね」

 会場内や外での撮影を何枚か撮り、家族での集合写真も撮る。

「はい、撮りますよー」

 これが初めての家族写真。

 後にリビングに堂々と飾られることになる写真。



 そうこう進めるうちにブーケトスの時間になる。

「さん、に、いち――」

 ゆめが盛大にブーケを投げ――

 ――そのブーケが何故か僕に飛んでくる。

「うわっ」

「よし命中」

 よし命中、じゃないんだよ姉。

 ブーケトスってこう言う競技だっけ?

 いえいとピースするユズに苦笑い。

「私達もまだお嫁に行く気は無いもんねー」

「そうそう、二人見てるだけで満腹だよ」

 僕もその言葉に返すように、顔についたブーケの花びらを取りながら笑う。

 そうしてみんな笑顔で結婚式は終わっていくのであった――。




***




 ――夢を見た。

 温かい、花園の中に居る夢を見た。

『ありがとう』

 誰かから、声を掛けられる。

 姿は朧気で、背格好だけ見ればゆめとそっくりだ。

「ゆめ……?」

『違うわ、でも。同じかも知れない』

 どう言う事かわからないけど、違和感も何も感じない。

 それ以上に、安心感を覚える。

『貴方ならやり遂げれると信じてましたから』

 ……。

 聴いたことない声なのに、なぜか懐かしい気持ちになる。

『本当にありがとう。幸せにしてくれて、私も嬉しいわ』

「……もっと幸せにしますよ、ゆめのことは」

 あぁ、この方は。

 ずっと見守っててくれたんだ。

『それじゃ――』



 ――。

 ゆっくりと目覚める。

 幸せな夢を見ていた気がするな。

「なんだか……不思議な夢だった気もするな……」

 あくびをしながら軽く水を飲む。

 時刻を確認すると……まだ夜明けまで時間はある。

 ゆめを起こしに行くにはまだ早いな、そう思い再び布団に潜り込む。

 もう一度アラームをセットし眠ろうとするのだが。

 ……眠れない、そんな昨日早寝したわけじゃないのに。

 そう言う時、やはり無性に間隔が鋭くなる。

 風の音、時計の秒針、廊下の足音。

 寝ようとしてもなんだかその音で眠ることが出来なくて。

 ただ、一つだけ止まった音がある。

「……ゆめ?」

 扉を開けたのはゆめ。

「シオン、起きてる?」

「起きてるよ」

 身体を起こしながら手招きをする。

「この時間に起きてるだなんて珍しいね」

「なんだか幸せな夢を見たの。お母様が出てくる夢で」

 だからこの部屋にやってきたのか。

 さっきの夢の内容を語るゆめ。

 その内容は、僕がさっき見ていたモノと似通ったモノで。

「この時間に起きちゃってすぐ寢れないでしょ?お茶淹れようか」

「うん、美味しいカモミールをお願いね」



Sweet Confession

Fine.

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