EP25 告白 - Confession
『さぁ、誓う準備は出来た。後は伝えるだけだ』
今夜はお鍋だよとユズからメッセージが飛んでくる。
「ユズが買い物だなんてまた珍しい……」
「私が行こうと思ったら面白いものがあるらしいから行きたいってユズが飛び出しちゃって」
元々鍋にする予定だったのはお嬢様が考えていた献立なので、それをそのまま持ってきただけだろう。
まぁ……鍋の具材くらいならユズに任せても別に問題ないか。
調理するのはユズじゃないし。
と、話し込んでいると買い物帰りのユズがやってきた。
「おーい、ゆめと丁度いいところにいるシオン」
「一人だけ雑」
ユズが笑顔でこちらに寄ってくる。
「そろそろ世間ではあの季節になってきたわけだが」
「はいはい、クリスマスね」
お嬢様が口を挟む。
「クリスマスがどうかしたんですか?ユズ」
「なんと、今日の買い物でくじ引き引いてね」
あぁ、面白いものってそれか。確かに興味持ってもおかしくはないな。
じゃん、と口で効果音を発しながら封筒を見せつけるユズ。
「なんですかこれ?」
「まぁ開けてみなって」
不思議そうな顔をしながらお嬢様は封筒を開ける。
「ディナーの……」
「ペアチケット?」
ユズは笑う。
「それ以外に見えたら二人いっぺんに眼科に連れてくよ」
「よく当ててきたな……」
日頃の行いがね、と胸を張るユズ。
……この姉に対してこの弟、どこがどう違ったらこうも性格に差がつくのか。
「それで、誰と行くんですか?」
「え?ゆめとシオンの二人だけど」
えぇ、っと声が重なる。
「いや、私ディナーってガラじゃないし、一緒に行く人間も居ないから」
「まぁ確かにそうかも知れないけど……」
貰っちゃって良いんですか?とお嬢様はユズに問う。
「私とシオン姉弟水入らずなんて嫌だし二人で行ってきなよ。息抜きにさ」
「それなら……貰っちゃいましょうか。良いですよね?シオン」
えぇ、構いませんよ。と返しながら。
これはいいタイミングなのではないか、とも思う。
ディナーの時でも後でも良いから、お嬢様に告白……するんだ。
***
クリスマス・イブ。
何回かちゃんと指輪はかばんに入れたかを確認しエントランスに降りる。
ドレスコードのあるお店らしいのでちゃんとした服装をする。
と言いながらも最近こう言う服を着るのにはまぁまぁ慣れてきてるので堅苦しさは感じないのだけど。
「おまたせしました、シオン」
お嬢様がエントランスにやってくる。
肝心の服装はコートで隠されていて見れない。
「それじゃ、行きましょうか」
「えぇ行きましょう」
ユズが送ってくれるらしいので車に乗り込む。
「あらかっこいい弟だこと」
「わざわざ声に出さなくてもいいんだよ、姉さん」
ふふっと笑うお嬢様。
車出すよ、とユズはアクセルを踏む。
「そう言えばみんなは今日どう過ごすんだ?」
「ピザでも取るかって感じで、今注文してるんじゃない?」
なんか申し訳なく感じてくるな。
「シオン、なんか申し訳ないって顔してるでしょ」
「なんでわかるかなぁ」
そりゃあんたの姉だから、と笑いながら赤信号で止まる際にこちらを見るユズ。
「うわ本当にそんな顔してた」
そんな顔に出てたか……。せめてお店に付くまでにはどうにかしないと。
「それだけシオンがみんなのことを思っているって事なんですよ、ユズ」
「わかってるってゆめ」
この二人もよく噛み合ってるよなぁ、と思いながら外に目をやる。
イルミネーション、クリスマスツリー、サンタの仮装。
街はクリスマスで満たされていると言っても過言ではないだろうな。
「もうすぐ着くよ」
何人目かのサンタクロースを見つけた頃、ユズが声を掛けてくる。
もう一回だけかばんの中を……大丈夫、入ってる。
店の駐車場に車が止まる。
「それじゃ、楽しんできなね」
「ありがとう、ユズ」
じゃあなーと手を振りながら去るユズ。
「じゃあ、入りましょうか」
「そうしましょう」
少し早い時間だからか人はまばらで。
「いらっしゃいませ、ご予約の方ですか?」
「あ、はい。えっと……」
封筒からチケットを手渡す。
「ありがとうございます、只今席にご案内します。コートをお預かりしますね」
はい、とお嬢様はコートを差し出す。
黒に近い紺、まるで夜空のようなドレスを身にまとったお嬢様。
見惚れてしまいそうになるのをなんとかこらえる。
そのまま席に通される。
くじの特典だからだろうか、なかなか良い席じゃないかここは。
「こんな風に食べに来るだなんて、何年ぶりかしら」
「少なくとも僕が来てからは……数回くらいしか無かったんじゃないですか?」
お嬢様が少し考えながら指折り数える。
「……この場合ファミレスって含めても良いんですかね?」
「それは……ダメでしょう、色々と怒られますよ」
冗談ですよと笑うお嬢様に釣られて笑う。
そんな中、店員さんが席にやってくる。
「本日の主菜は肉と魚がございますがどちらにしますか?」
「シオン、どうします?」
うーん、お肉を食べるとなんか満足してしまいそうな感じがあるから魚にしようかな。
何に満足するのか自分で考えて謎になったけど、少なくともその後だらけてしまいそうなのがわかる。
「僕は魚で」
「それじゃあ私も同じでお願いします」
かしこまりました、と笑顔で去る店員さん。
「……本当はお肉が良かったんじゃないですか?」
「えっと、まぁお肉でも良かったんですけど。帰ってからケーキとかあるかなって思ったら」
ふふ、シオンらしい答えと微笑むお嬢様。
今頃みんなは何をしているんだろう。
――気が付いたらデザートまで食べ終わってしまった。
タイミングが、タイミングがない。
ここに来てまだ僕は、ダメなのか。
「シオン。この後ちょっと歩きませんか?イルミネーションもやってますし」
「そうですね、そうしましょう」
……そこに賭けるしかない。
お店を出て、少し街を歩くとイルミネーションで明るく照らされている。
こうしてイルミネーションを見に来たことも……あったのだろうか。
少し歩くと……
「サンタクロースもいろんなところに居ますね」
「サンタもイルミネーションが見たい時だってあるんじゃないですか?」
そうかも知れませんね、と隣で笑うお嬢様。
「せっかくなので何か飲みましょうか。ホットチョコレートでも」
「ホットチョコレートもいいですけどどうせなら……」
お嬢様が屋台の方へふらっと歩いていくのでついていく。
「グリューワインですか、良いですね」
二人分のグリューワインを買ったお嬢様は片方を僕に差し出してくる。
「はい。シオンは赤派ですもんね」
「あはは、覚えてたんですかそれ」
えぇ、色々と。と言いながら思い出した物に苦笑いするお嬢様。
「ちょっと座れる場所探しましょうか、熱いものをそのまま飲むのは危ないですし」
少しあたりを見渡すと広場のベンチに空きがあるのを発見。
「あそこに行きましょう」
「わかりました」
お嬢様は手を差し出す。
僕は頷いてその手を取りエスコートする。
ベンチに座り、ゆっくりとグリューワインを飲む。
「温かい……スパイスも良い感じに効いてますね」
「うちで作るのとじゃまた違いますね。あ、シオンの作るグリューワインももちろん好きですよ?」
なんて会話をしながら笑いあって――。
――今だ。
「お嬢様、あの」
「どうしました?」
……少しだけ無言の時間が訪れる、それを打開するのは――僕だ。
「渡したい物がありまして」
その言葉を聞くとお嬢様は微笑む。
「ふふ、奇遇ね。私もよ」
それじゃ先にどうぞ、とお嬢様に順番を譲る。
「えっと、これとこれなんですけど」
箱が二つ置かれる。
「二つも、ですか?」
二つの箱を開ける。
「ピアスと時計と迷って、結局両方になっちゃいました」
あぁ、お嬢様らしいと言うか。
どちらも僕の事を考えて選んでくれたんだろうなと思うと、嬉しくなる。
「で、シオンの渡したい物は?」
「……えっと」
カバンの中からケースを取り出す。
そのケースを開け、指輪を見せる。
「お嬢様……いや、ゆめ――」
続く言葉が出る前に。
「――ありがとう、シオン」
唇と唇が触れる。
三秒、五秒、十秒、何秒?
「っぷはっ……」
「絶対、大切にします。指輪も、シオンの事も」
息を整えながら、僕も返事を返す。
「僕も絶対、幸せにするから――」
――僕と、結婚してください。
「私だって、同じ気持ち。本当に……」
シオンは遅いんだから、と言われて苦笑い。
もう一度、唇と唇が重なる。
その数秒後だろうか、それとも重ねている間だろうか。
路面も凍結していないと言うのに誰かが転ぶ様な音が聞こえて。
その音の方向を向くとやはり誰か転んでいるようで、慌てて起き上がろうとしている。
転んだ人と目が合う。
「……モモ?」
だけじゃない、必死に起こすナズナの姿も見えた。
「お嬢様、えっと。このタイミングでアレですがちょっと待っててもらっていいですか?妹を捕まえてきます」
げっ、と言う声がしたので走って追いかける。
……。
***
「んで?」
「はい……」
全員が正座をしている。
「誰ですか、犯人は」
全員が挙手をする、隣りに居た人物も。
「……お嬢様?」
「ご、ごめんなさい……」
はぁ、と白い溜め息が出る。
つまり、みんな知ってて待ち伏せしてたのか。
「と言うか、ゆめちゃんが言い出し――」
「――へぇ、ほん、ふぅん……?」
え?
「そもそも二人どれくらい両思いの期間があったんだろうね」
「私が連れてこられた頃にはもうラブラブだったと思うけど」
この姉は……。と言うか……。
「全員、グル?」
うん、はい、そう。言葉が重なる。
「……あぁ」
この家族で僕はいつまでもこうなんだな、と笑う。
それがたまらなく愛おしい。
「で、いつから?」
「最初から最後まで、だけど?」
え??
「えっと、店ごと……」
「貸し切りに?」
はい、と小声で頷くお嬢様。
「じゃあ他の人達は……?」
「友達とか……社員とか……」
……ええ?
「カリン、看板出すなら今だよ、まだ僕は冷静だからドッキリって言われても大丈夫」
「そんなもの用意してるわけないじゃないですか、お嬢様の意志なんですから」
……そうか。
そんなにも――想われてたのか。
「はぁ、ゆめ」
「えっと、なんでしょう」
もう一度唇を重ねる。
「屋敷に帰ってからじっくりお説教」
「ふふっ、いくらでも受けますよ。シオン」
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