EP24 母親 - Accept

『貴方を認めましょう。さぁ、行ってきなさい。家族の為に』


「カリン、この後時間ある?」

「ナンパですか?」

 なんで屋敷の喫煙所でナンパなんてしなきゃいけないんだ。

「と、茶化すのは良しとして。空いてますよ」

「少し話があるのでどこかに出たいんだけど」

 じゃあ喫茶店にでも行きましょう、バイクを出しますと死刑宣告をされる。

「いや、歩いていけるしこの時期バイクは寒いだろうし」

「大丈夫ですよ、歩いていける距離ならすぐ終わるって訳ですから」

 あぁ、逃げられないのか、まぁそんなことはどうでもいいか。

 カリンに連れられ、喫茶店に向かう。



「で、本題は?」

「即聞いてきますか」

 早めに聞いた方がシオン君のためかと、と言われるとぐぅの音も出ない。

「……わかりました、単刀直入に言います」

 ――お嬢様に交際と婚約を申し込む。

「すっ飛ばしますねぇ」

「自分でも色々飛ばしてるのはわかるんですけど、これが正解なんじゃないかって」

 シオン君らしい答えです、と笑われる。

「半分くらい交際してるようなもんですからね二人は。良いんじゃないでしょうか?」

「えっと、え、良いんですか?」

 良いですが……?とカリンは首を傾げる。

「もっと抵抗されて勝ち取りたかったんですか?お嬢様のこと」

「いや、そう言う訳じゃないんですけど。こんなにすんなりと行くと逆にびっくりと言うか」

 実感が無いと言うか。

「私が止めた所で、あくまで意思は二人のものですからね。それに、私は確約するものでもありませんし」

「まぁ……無様にフラれる可能性もありえますけど」

 それでも。

「どこにも行かないのは確かですよね?」

「えぇ、もう契約でもなんでもありません。僕の意志です」

 それなら結構、とカリンは頷く。

「でもシオン君、今更ながらそんな事言えるんですか?」

「う、確かに言われてみれば……改めて口に出すとなんとも言えませんけど」

 それでも、伝えるんでしょう?と。

「はい、ちゃんと伝えます」

「ふふ、その言葉がようやく聞けて嬉しいですよ」

 ようやく、か。

 確かにカリンはかなり前から色々と根回しをしていたり。

 もしかしたら旦那様までグルだったのかも知れない、なんて考えたりして。

「もうちょっと決断が早かったら孫でも見せてあげれたんですけどね」

「流石にそれは急すぎません?」

 それに、最後に旦那様に背中を押されなかったら。

 決意は、決断は、契約は出来てなかったと思う。

 それくらいに自分は決定打に欠けると言うことは重々承知なのだから。

「……あ、私にとっても孫になるんですね」

「その発想からまず離れません?流石に飛躍しすぎですよ」

 ……子供かぁ。

 実感が湧かない以前にそもそも正式にお付き合いすらしていない。

 いや、同じベッドで寝たりさせられたことはあれど、やましいことなど一切なかった訳だし。

「叔母になると考えるとモモは無条件で喜びそうですけどナズナは響きだけは否定しそうですよね」

「カリン?」

 からかいすぎましたか?と笑われる。

 いつものことです、と丁寧に返す。

「まぁいつかあるかも知れないことですし、考える分には構わないでしょう?」

「別に考えるだけなら良いですけど……」

 もっと屋敷が賑やかになるのかな、なんて考える自分も居る。

 そうだな、せめてちゃんと交際していれば旦那様も満足してたかも知れないけど。

「じゃあ話題を変えましょうか。ユズについて」

「あぁ……あの姉について、ですか」

 つい先日までやけに親近感の湧く他人だったのが実の姉でした。

 それをまだ完全に消化しきれてるわけではない。

「幼少期に離婚してた、らしいですしそもそも記憶も無いので本当に姉なのか未だにわからないんですけど」

「でも言われてみれば似てる部分もあったりしますよ。適当なところとか、それでいて不器用にお人好しなところとか」

 なんとも言えない……褒められては無いんだけど、けなされてもないさじ加減。

「いつからカリンはこの事を?」

「シオン君が引っ越してくる時に手続き一緒に行ったじゃないですか。あの時あたりですかね」

 あの時……。

『――片親で母親に引き取られたんで旧姓なんですよね』

 でもあれだけの情報で引き出せるものなのだろうか。

「まずはシオン君の旧姓、そしてユズから昔ポロっと離婚した時の話を聞いて名字を聞いていたなと」

「それで照らし合わせて、ですか」

 そうです、とカリンが頷く。

 確かにこの名字は珍しいし、色々な情報を整理すればカリンからすれば判断も容易いだろう。

「でも本当に確信したのはユズが帰ってきてからですね。彼女はわかりやすい反応をしてくれたので」

「今考えてみればなんで隠したんだって思いましたけど……ユズなりの配慮なんですかね」

 どうでしょうねとカリンは笑う。

「配慮も何も、見た瞬間最初から隠す気だったのかも知れませんし」

「理由はわかんないですけど……最近ようやく教えてくれたのには多分理由があるんだろうなとは」

 何か心変わりでもあったのか、それともただの気まぐれなのか。

 よくわからないけど、それでもユズが姉だと言う事実を伝えてくれたことには感謝している。

「それで。シオン君はいつ告白するんですか」

「……もう指輪は受け取ってきてますし具体的には決めてませんけどそう遠くない未来です」

 なるほど、と言うとカリンは僕の背中を叩く。

 励ますような、力付けるような一撃を。

「応援ではありませんが強制でもありません。あくまで自分の意志で意思を伝えてください」

「元からそのつもりですよ」

 それじゃ、帰りましょうかとカリンが席を立つ。

 あぁ、またあのバイクが……。


 ……カリンが義母になるだなんて想像付かないな。

 双子が兄妹になる方がまだ想像に難くない。

 それでも。

 関係性がどう変わろうと僕達は『家族』だから。

 それが義から真に変わるだけだ。

 多分、人生の過程で見ればほんの僅かな変化だったりするのかも知れない。

 それくらいに僕達は――。

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